量子コンピュータの実用化に向けては、計算スケールの大規模化と誤り耐性という課題の解決が必要になる。計算スケールの大規模化では、研究開発段階にある数百量子ビットクラスの小規模なシステムから、現実問題に必要な数百万量子ビット以上の大規模システムに拡張する道筋が求められる、現行の量子コンピュータに用いられている超伝導やイオントラップといった量子ビットは数百万量子ビットレベルの大規模化の道筋が見えていない。これに対し、光量子コンピュータは時間軸上に量子ビットを並べることによって、装置の大型化や素子の集積化をすることなく量子ビット数の増大=大規模化が可能なことが知られている。
一方、光量子コンピュータの大きな課題になっていたのが、現実のシステムで必ず存在するノイズやエラーが生じ得る環境下でも量子情報処理を正しく実行する仕組みである誤り耐性への対応である。その第一歩となったのが、誤りを検知し訂正できる「論理量子ビット」であるGKP量子ビットの生成という研究成果だった。
このGKP量子ビットの生成手法では、シュレディンガーの猫状態と呼ばれる非古典性が強い光量子状態を複数用いる必要がある。従来の光学系では光量子状態の生成速度がkHzオーダーに留まっており、この状態を複数用いるGKP量子ビットの生成速度はHzオーダーと極めて低くなっていた。つまり、光量子状態の生成速度を高速化しなければ、GKP量子ビットによる誤り耐性型光量子コンピュータの実用化は難しくなる。
そして、光量子状態の制限の原因となっていたのが量子光源とホモダイン測定器である。確率的な量子状態の生成レートは「試行回数」と「成功確率」の積によって決定される。例えば、試行回数が100MHzで成功確率が0.1%の場合、約100kHzの生成速度になる。成功確率は量子状態の種類や生成手法によってほとんど決定されるため、実験的な工夫によってはあまり変動しないため、試行回数を向上させることが重要になる。この単位時間当たりの試行回数を制限していたのが、量子光源として用いていたスクイーズド光源の帯域だった。また、量子光源から生成される量子状態を正しく観測するためには、それよりも十分広い周波数帯域を観測可能なホモダイン測定器が必要になる。
従来の量子光学の実験での各要素の典型値としては、スクイーズド光源の帯域はMHzオーダーに制限されており、またホモダイン測定器の帯域は高い量子効率の確保のため100MHz程度に制限されていた。
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