参照すべき海外の動向の筆頭がNISTだ。NISTでは2016年から耐量子計算機暗号の標準化に向けたコンペティションを開始。82方式が提案され、2018〜2022年の評価期間を経て4方式が選ばれた。3方式が2024年8月に標準として発行され、このうち2方式でIBMが開発したアルゴリズムが採用されている。標準化予定の残り1方式もIBMが開発したアルゴリズムによるものだ。
IBMはNISTの標準化活動以外にも業界横断型のコンソーシアムや、オープンソースプロジェクトに参加。耐量子計算機暗号への対応に関心の高い金融業界や通信業界との連携にも取り組んでいる。
IBMは「有用な量子コンピューティングを世界にもたらすこと」「耐量子計算機暗号によるセキュリティが確保された世界にすること」の2つをビジョンに掲げ、量子コンピューティングメーカーとして耐量子計算機暗号に取り組む。
耐量子計算機暗号については(1)基礎暗号と応用暗号の研究、(2)サイバー攻撃の影響が大きいビジネスユースケースで耐量子計算機暗号に移行するためのコンサルティング、(3)暗号化の脆弱性を検出/監視/修復する技術の強化、の3つに注力している。暗号の研究は200人のチームで行われているという。
また、IBMは耐量子計算機暗号そのものの開発やNISTプロセスへの対応だけでなく、どこでどのような暗号アルゴリズムが使われているかを把握するための暗号部品表(CBOM、Cryptography Bill of Materials)などクリプトインベントリーの作成の他、耐量子計算機暗号の実装やユーザー企業での導入に必要なソフトウェア開発やインフラ、ネットワーク、デバイスなども手掛けており、包括的にサポートする。
IBMが150社にアンケートをとったところ、耐量子計算機暗号に対応する準備ができているのは全体の3割以下にとどまった。ハリシャンカール氏は「対応を先延ばしして待った企業ほど、より多くの投資が必要になる。短い期間で多くの作業をこなさなければならなくなるからだ。一方で、アーリーアダプターの企業は、耐量子計算機暗号にタイムリーに対応しなければどのようなリスクがあるかをとても意識している」と述べた。
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