首里城の再建に直接関わりたい 漆器職人を志す学生の決意ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(17)(2/3 ページ)

» 2024年09月25日 07時00分 公開

学生時代に打ち込んだ「舞台役者」、首里城が特別な存在に

沖縄県うるま市の中高生が演じる舞台「現代版組踊『肝高の阿麻和利』」で、「金丸」役を演じた松堂さん 沖縄県うるま市の中高生が演じる舞台「現代版組踊『肝高の阿麻和利』」で、「金丸」役を演じた松堂さん 出所:松堂沙耶さん

――中学/高校時代に部活動など打ち込んでいたことはありますか?

松堂さん 中学と高校の6年間、地元の沖縄県うるま市に住む中高生が演じる舞台「現代版組踊(くみおどり)『肝高の阿麻和利(きむたかのあまわり)』」に、役者として参加していました。

組踊とは?

組踊はせりふや音楽、所作、舞踊によって構成される歌舞劇です。首里王府が中国皇帝の使者を歓待するために創作されました。初演は1719年。

参考:国立劇場おきなわWebサイト

松堂さん 現代版組踊とは、組踊の要素も残しつつ、現代に受け入れられやすい形で演じる、いわばミュージカルのようなものです。沖縄では毎年ほとんどの学校で5、6月に平和学習が行われます。戦争の記憶を風化させないよう、子どもたちが自発的に学び、考えるきっかけとするための取り組みです。平和学習の一環として、劇の台本や衣装を1から自分たちで作り、発表するという活動も行っていました。

 私は、かつて琉球の地を治めた人物の役を演じるにあたって、琉球王国や首里城の歴史を学びました。演じた役のことを知る中で、首里城は私にとって特別な存在となりました。舞台にある首里城正殿が描かれた大きな幕の前で演じることは私の誇りでした。

 ですから、首里城が火災で焼失したと聞いた時は大きなショックを受けました。とても悲しく、何をしていても心に穴があいたような感覚でした。そんな中、首里城再建の話を聞きました。もともと沖縄のためになる仕事がしたいと思っていたこともあり、沖縄の象徴である大好きな首里城の再建に携わりたいと強く願うようになったのです。

京都伝統工芸大学校で漆を学ぶ

作業風景 作業風景[クリックして拡大] 出所:ものづくり新聞

――京都伝統工芸大学校に通われて4年目ですね。漆専攻での学校生活や授業についても教えてください。

松堂さん 授業は座学よりも実習の頻度が高いです。3年生だった前年度は主に、1、2年生の時に学んだ漆の基礎技術を応用した課題作品の制作や、修了制作に取り組みました。座学では、石こう型と紙パルプを使った造形の仕方を勉強しました。

 他の専攻に比べ30人ほどと比較的少人数なので、学年に関係なく1つの部屋で実習が行われます。そのため先輩や後輩との交流も多く、楽しい学生生活を送っています。お昼休みやバイトのない日の放課後に、みんなで集まってお喋りをしている時間が一番楽しいです。

高額な費用が掛かる金粉の作業

松堂さんの2023年度の修了制作展の作品「サン」 松堂さんの2023年度の修了制作展の作品「サン」[クリックして拡大] 出所:松堂沙耶さん

――「サン」という漆芸作品ができた経緯についても教えてください。

松堂さん 漆器の制作には、漆や金粉など高価な材料を使用するため、1つの作品を完成させるには多くの費用が必要です。「サン」の制作にも、木工加工や塗りに使う漆、さらには装飾用の金粉など数十万円の費用がかかることを想定していました。ジュエリーブランドのヴァン クリーフ&アーペルによる、卒業/修了制作にかかる資金補助のための奨励金の支給を受け、完成させることができました。

ヴァン クリーフ&アーペル デザインスカラーシップとは?

伝統工芸の技と知識の発展、次世代の職人/クリエイター支援を目的に、2021年度からスタートした産学連携プロジェクト。京都伝統工芸大学校の3、4年生を対象として、優れた卒業/修了制作企画案を提案した個人やグループに制作資金を補助する奨励金が支給されます。

参考:京都伝統工芸大学校Webサイト

デザイン図 デザイン図[クリックして拡大] 出所:ものづくり新聞

松堂さん 例えば装飾に使用する金粉の価格は1グラムあたり1万円以上です。制作を進める前に、どこにどのくらい金粉を使用するのかをあらかじめ図に描いて先生と相談します。装飾だけでなく木地や塗りの費用もかかるため、理想的なデザインがあっても、予算の都合でデザインや材料を変更せざるを得ないケースもあります。

 金粉などの材料はとても貴重なので、グラム単位で大切に使っています。金粉を触った筆はきれいに払って、その筆や、作業用のお盆についた金粉も再利用します。作業場で金粉を蒔(ま)くときは、風で飛散しないよう細心の注意を払っています。

 過去には作業中に誰かが隣を通っただけで、金粉が半分くらい飛んでいってしまったことがありました。その時は思わず「今5000円飛んでいったんだけど!」と口に出してしまいました(笑)。それ以降、金粉を扱うときは極力1人で作業できる時間帯を狙うようにしています。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.