「ジェネレーティブデザイン」という技術を聞いたことがあるでしょうか。ジェネレーティブデザインは、AIに設計要件(固定方法や荷重条件)を伝え、設計案を自動生成させる手法です。
例えば、モビリティ業界では車体の強度を保ちつつ、いかに軽量化できるかという課題がつきものですが、ジェネレーティブデザインを用いるとその解を即座に導くことができます。
ジェネレーティブデザインは主には構造設計の文脈で活用される技術ですが、意匠設計の観点で用いられる場合もあります。なぜならジェネレーティブデザインは、人間では思い付かないような独特な形状や新たな解決策を見つけ出すことがあり、その形状はときに魅力的なものになるからです。
例えば、ジェネレーティブデザインツールを提供するAutodeskと電動車いすの設計開発を行うWHILLがコラボレーションし、近未来的なパーソナルモビリティのデザインを生み出しています。
この事例は、車いす本体の強度を保ちつつ、いかに軽量化できるかという課題に対する取り組みです。しかし、その結果として、軽量化と高強度を両立する合理性だけでなく、従来の車椅子とは一線を画す有機的かつ魅力的なデザインがジェネレーティブデザインによって生み出されました。
ジェネレーティブデザインは正しい条件設定さえできれば、目的や開発条件を満たした形状を導き出しますが、製造性を考慮していない(実際に製造することが難しい)案を提示することがあります。そのため、製造コスト、製造方法、部品数などの観点からデザイン案を評価し、必要に応じてデザインの改良や製造プロセスの見直しを行う作業は人に残されます。
ジェネレーティブデザインについてより詳しく知りたい方は、以下の記事を参考になさってください。
昨今のAIブームの発端になったツールといえば、「ChatGPT」を代表とするAIチャットとその精度向上です。AIチャットは単なる情報収集ツールではなく、デザインに関する発想を加速させる強力なパートナーにもなり得ます。
一般的なAIチャットの活用方法といえば、調査分析やキャッチコピーの検討などですが、商品企画やデザインコンセプトの検討でもAIチャットは、そのポテンシャルを発揮します。
例えば、AIチャットに商品企画の前提となる「20代男性向け」「キッチン用品」「EC販売」といった情報を提供することで、前提条件に適合した商品アイデアおよびその仕様を生成させることができます。もし、前提条件となるような情報が足りないようであれば、より詳しい前提条件を自分で考えるのではなく、AI自身に提案させることも可能です。
また、ターゲットとなるペルソナを検討する際の活用もオススメです。例えば、以下のように任意の商品企画に関して、有力なターゲットペルソナをAIチャットに出力させてみます。
【入力プロンプト】
下記商品のメインターゲットになり得るペルソナを生成してください。
AIチャットの出力結果は以下です。
【出力結果(抜粋)】
インプットしたプロンプトに対して、具体的な年齢、性別、家族構成、そして、「クラフトビール」や「キャンプ」といった有効そうなキーワードが出てきました。このアウトプットは一見商品にマッチしそうなペルソナですが、果たしてこれは本当に正しいのでしょうか。
ここで種明かしをすると、実は著者の会社で実際に販売している商品を基に、先ほどの入力プロンプトを作成したのでした(参照製品:缶オープナー「DAVI(ダヴィ)」)。そして、そこからAIが導き出した結果(出力結果)はというと、見事に現在当社が把握している購買層にかなり酷似した内容になっています。実際、本製品のメイン購買層は40代以上の男性であり、さまざまな販売チャネルの中でも、「クラフトビール」や「キャンプ」といったキーワードでの訴求が最もインプレッションが高いのです。
このことは、適切な情報さえAIに提供できれば、一定精度のペルソナがAIチャットを活用して描ける可能性を示唆しています。
しかし、“AIチャットはあくまでツールの一つである”ことを忘れてはなりません。AIの生成したアイデアをうのみにするのではなく、担当者自身の感性や経験に基づく取捨選択や、ブラッシュアップが重要です。というのも、AIはあくまで「ユーザーから与えられた情報」や「Web上にある情報」などのデジタルデータに基づく回答をします。しかし、実際のビジネスにおける機会や脅威は必ずしもデジタルデータとして存在しません。少なくとも、非デジタル情報を商品企画や製品性能に落とし込む作業は人に残されるのです。
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