機械設計に携わるようになってから30年超、3D CADとの付き合いも20年以上になる筆者が、毎回さまざまな切り口で「3D設計の未来」に関する話題をコラム形式で発信する。第13回は、中小製造業における「スマートファクトリー」の実現にフォーカスして、筆者の考えを述べる。
ここ最近、「インダストリー4.0」という言葉をあまり聞かなくなりました。インダストリー4.0とは、2011年にドイツ政府が公布した戦略的技術政策の中で提唱されたコンセプトで、簡単に一言でいえば、「製造業の中で積極的にITを取り入れ、改革する」というものです。
インダストリー4.0を推進する代表的なテクノロジーの一つとして、センシング技術が挙げられます。センサーやカメラなどを活用して製造工程のさまざまな情報を収集し、それらを基に、各工程の最適化を図るというもので、センシング技術は皆さんもよくご存じのIoT(モノのインターネット)を実現するための重要な役割を果たします。ちょうどIoTが大きな話題となった2016年ごろ、筆者もその研究活動に注力していました。
そして、近年のDX(デジタルトランスフォーメーション)、AI(人工知能)といった大きな潮流は製造業にも影響を及ぼし、インダストリー4.0の仕組みにも変化をもたらしているように感じます。今回は、インダストリー4.0を具現化した先進的な工場、「スマートファクトリー」に焦点を当ててお話したいと思います。
まず、スマートファクトリーで実現できる代表的な項目を列挙してみました。
スマートファクトリーは“デジタルを駆使した理想的な工場”だといえます。しかし、現実としては、大手製造業による取り組みが中心であり、中小製造業にはハードルの高いものだといえます。少なくとも筆者はそのように感じています。中小製造業がスマートファクトリーに取り組めない代表的な理由は以下の通りです。
筆者は「ITコーディネータ(ITC)」として、ITを駆使した経営戦略の策定や課題解決にも取り組んでいます。そうした活動の中で、特に中小製造業に対して感じるのは、「経営課題の解決に、主体に取り組もうとする考えが足りていない」「スマートファクトリーに代表されるような最新動向や技術トレンドに対する専門性や知識を持った人材が少ない/いない」「総じて、新しいことを推進/継続するリソース(ヒト/モノ/カネ)が不足している」ということです。
スマートファクトリーを実現するということは、一過性のシステム導入で完結するものではなく、継続性が求められ、会社経営と密接に関わっていくものです。「ITを導入すれば何とかなる」というものではなく、「経営戦略とITの両輪による継続的な取り組み」によって、その効果を得ることができるのです。
以下、中小製造業がスマートファクトリーに取り組むために必要なことをまとめてみました。
「いやいや、これができれば苦労しないよ」というツッコミが聞こえてきます。これだけのことを不足なくできる中小製造業は現実としてごく少数、ひょっとするとほとんどないかもしれません。やはり、スマートファクトリーの実現は体力のある大手製造業だけのものなのでしょうか。
デジタル化やツール活用などで業務プロセスの変革に取り組むDXの推進にも、最近話題の生成AIの活用にも、リソース(ヒト/モノ/カネ)は必要です。中小製造業が取り組むにはやはりハードルが高い面もあります。しかし、テクノロジーの進化は止まることはありません。そして、先進のテクノロジー、デジタルの活用は企業の成長、競争力強化に欠かすことはできません。
では、中小製造業という立場で、どのような選択が考えられるでしょうか。以降で「スマートマニュファクチャリング」という考え方をご紹介したいと思います。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.