リチウムイオン電池の完全循環システムは構築できるのかLIBリサイクルの水熱有機酸浸出プロセス開発の取り組み(5)(2/4 ページ)

» 2024年08月08日 08時00分 公開

1-3 サブテーマ1:水熱再生プロセスの開発

 サブテーマ1では、主に正極材のリサイクルに関して検討する。まず、コバルト酸リチウム(LCO)、ニッケル酸リチウム(LNO)、三元系リチウム(NCM)といった層状構造を持つ正極材を対象に、JST未来社会創造事業・探索加速型において、2018〜2019年度の2カ年をかけて「リチウムイオン電池完全循環システム」という題目で、水熱有機酸浸出プロセスに関する基礎実験から連続プロセスの実証について検討するとともに、金属単離に対し超臨界二酸化炭素を用いるプロセスを提案し、検討した。このことについては、当該連載の第4回で紹介した。

 この検討において、水熱有機酸浸出プロセスの有用性は確認され、その実用化に大いなる期待が寄せられた。その後継検討として環境研究総合推進費(ERCA)に応募し、2022年度に環境問題対応型研究(カーボンニュートラル枠)に応募し、採択された。

 金属単離に新たなプロセスを想定するとともに、正極材を再生することも加え、さらには水熱プロセスの可能性を広げる検討を行うことを提案した。すなわち、層状構造を有する正極材に対する検討は引き続き実施するとともに、スピネル構造を持つLMOおよび、今後ますます利用の拡大が予想されるリン酸鉄系(LFP)への適用に加え、条件最適化について引き続き検討している。

 また、水熱有機酸により浸出した水溶液に含まれる金属イオン種を、錯体形成を利用した析出/固液分離プロセスの開発を進める。さらに、水熱有機酸浸出した金属イオンを含有する水溶液から、水熱条件で再生できるかどうかについて、サブテーマ3とも積極的に連携しながら、検討する。

 水熱技術を正極材や負極材がなす構造からの部材分別にも応用し、その有用性を確認する。具体的には、アルミ箔上にポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが接着された正極材を、PVDFを部分変性もしくは溶融させ、正極材を直接再生可能な状態で回収できるかを試みる。サブテーマ1では、正極材に主に着目し、地域企業と密接に連携し回収ルートの確立も含め、そこを中核とした域内循環システムを開発することを目標として検討する。

1-3 サブテーマ2:廃棄バイオマス資源からのLIB用負極材料作製プロセスの開発

 サブテーマ2では、負極材に関して検討する。これまで、木質チップから850℃程度の低温でグラフェンを創生するプロセスの開発に成功し、さらなる効率化や連続プロセス化に向けた開発が急務である。当該研究開発では、水熱炭素化をベースにした炭素材料開発を引き続き推し進め、LIBの負極として有用である高結晶性グラファイトを、さまざまなバイオマスから製造できる可能性を明らかにする。その際、LIB負極材として有用であることを示す指針を、負極材解析において用いられる方法論から導出できるように検討する。

1-4 サブテーマ3:再生元素から合成された正極とグリーン負極を用いたLIBの開発

 サブテーマ3では、電池の再生可能性に関する方法論の策定と検証を行う。特に、再生された元素からの正極材料の合成について、正極材の再生手法の策定とその条件探索を進める。また、サブテーマ2で作製されたグリーン負極の電池特性についても協力して検討する。さらに、LIBの完全循環システムに向けて、水熱再生プロセスならびに水熱炭素化プロセスの両技術に対し、技術の原理検証に加え、ラボレベルで実証する。

2 これまでの成果

2-1 サブテーマ1:水熱再生プロセスの開発

2-1-1 正極活物質濃縮

 アルミ箔に塗布された状態の正極材活物質を濃縮回収すべく、水熱粉砕プロセスの有用性が想定されたことから、この検証を実施した。具体的には、LIB正極からアルミ箔を分離する方法を検討した結果、ある温度帯の水熱条件において良好に正極活物質を濃縮物として回収できた。このプロセスにより、従来は1-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶剤や水酸化ナトリウム(NaOH)のようなアルカリを必要としたプロセスを、環境低負荷の水のみのプロセスで代替することができる。

 現有の半回分式装置により水熱システムを用いた実験結果に基づき、アルミ箔は水熱条件の水に完全に溶解し、LIB正極材料は残留物として分離されることを明らかにした。これらの結果は、水熱前処理法がLIB正極材料をアルミ箔から分離することが可能であり、水熱破砕装置の提案の基盤となることを示している。

2-1-2 水熱有機酸浸出

 これまで、酸浸出条件のさらなる最適化により、Mnの析出条件を明確化しつつ、CoやNiそれぞれを浸出/析出させる条件を探索/明確化してきた。これ対し、層状構造やスピネル構造を有するLIB正極材料を対象とした検討では、最適条件において、Li、Mn、Niの各浸出効率が100%に達することを確認し、固液分離による金属単離を検討したところ、全ての金属元素に対し95%以上の回収率/純度で回収できることを発見した(図3)。また、LFP系LIBの正極材に対しても水熱酸浸出を実施し、当該方法論の有用性を確認することができた。

図3 金属単離スキームの一例 図3 金属単離スキームの一例[クリックで拡大]

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