本連載では東北大学大学院 工学研究科附属 超臨界溶媒工学研究センターに属する研究グループが開発を進める「リチウムイオン電池リサイクル技術の水熱有機酸浸出プロセス」を紹介する。第5回ではリチウムイオン電池の完全循環システム構築に向けた取り組みを取り上げる。
これまでの連載を通じて記載している通り、リチウムイオン電池(LIB)は、欧州規制が発効されたことに相まって、国内外でリサイクル技術の開発が盛んに行われている。リサイクルには、技術開発のみならず、回収されたLIBを製造へと、つまり静脈から動脈へとつなげる全体バリューチェーンの構築が欠かせない。しかし現在、廃棄LIBの量が十分ではなく市場が形成されていないこともあり、全世界的にいまだリサイクル全体が連結されているバリューチェーンはごく限られている。
LIB正極材の構成金属について、廃棄LIBから破砕、粉砕、焼成、分級などを経て得られた黒い粉状物質「ブラックマス」(最近では工程不良品から回収された正極材由来の黒い粉状物質はブラックパウダーとも呼ばれる)を製造する企業が各所で存在しているが、電池材料へと再生するための湿式精錬や電極再生を担うプロセスが限られている。そのため、各所でのLIB回収ルートを車輪のスポークに例えれば、それが集まり再生されるプロセスがハブとなる、スポークハブ構造になっている。
この構図を変えるべく、われわれの研究グループでは、東北大学が位置する南東北を対象に、大学、自治体、企業群をつないだ廃棄LIBリサイクルのバリューチェーン構築を目指し検討を進めている。日本は、LIBに関わる素材およびLIBを製造する企業が多くある。こうした事情を踏まえれば、各企業から排出される工程不良品を対象に、まずは小規模リサイクルから始め、その同心円上で扱う廃棄LIB関連物質を増やしていきながら、バリューチェーンを強化していくことが求められると考えている(図2参照)。
そこで、環境研究総合推進費を活用し、LIBのスモールグリッドによる完全循環システムを構築すべく、水熱再生プロセスならびに水熱炭素化プロセスの両技術に対し、技術の原理検証に加え、循環システムとしてのプロセスについてラボレベルでの実証を検討している。この実証では、地域企業と密接に連携し、廃電池の回収ルートの確立も含め、LIBの域内循環システムの開発を目指して、当該事業を以下の大項目3つに分割し、検討を実施している。
当該事業全体において、粉砕処理、正極活物質の再生、負極や導電助剤となる炭素材料の循環性向上に取り組むとともに、再生技術により製造された正極材と、循環資源から作られた負極材から成る再生電池の特性を評価している。
まず、サブテーマ1では、実際のLIBを対象とし、放電ならびに構成部材を構成単位に分別するための、水熱粉砕技術の有用性を確認する。次いで、正極材に含まれるリチウム(Li)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、リン(P)を回収、分離、濃縮する技術に加え、適宜元素バランスを考慮し正極活物質を再生する技術の原理を検証する。
サブテーマ1では、東北地域での域内循環システムの確立を目指し、南東北のLIB製造メーカーの工程不良品を想定した検討から始め、実際の廃棄LIBにおける域内回収ルートの確立可能性を評価しながら、回収品を対象とした正極活物質およびバインダーの再生を試みる。
サブテーマ2では、直接再生が難しい炭素材料に対して、原料に循環性を求め、木質チップからLIBの負極として使用できるグラフェンを取り出し合成する。地域林業から産出される木質チップを電池用の炭素材料に変換するため、地域企業に協力を得て、水熱炭素化を起点とした炭素生産プロセスの原理を検証する。
サブテーマ3では、正極材の再生手法に関する手法を策定しつつ適切な正極再生プロセスを提案/実証し、それを負極材および導電助剤として用いたLIBを試作し、その電池特性を評価する。最終的には、再生正極活物質および木質チップから製造した炭素材料を組み込んだLIBを試作し、その電池特性も評価する。
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