MONOistはセミナー「できるところから始める製造業DX 2024 春」を開催。本稿では、基調講演の、Industrial Value Chain Initiative(IVI)理事長で、法政大学デザイン工学部教授の西岡靖之氏による「製造現場デジタル化に向け、一から始めるスマートシンキング 〜欲しい仕組みは自分で作る〜」の内容を紹介する。
MONOistは2024年6月13日、ライブ配信セミナー「できるところから始める製造業DX 2024 春」を開催した。本稿ではその中から基調講演の、Industrial Value Chain Initiative(IVI)理事長で、法政大学デザイン工学部教授の西岡靖之氏による「製造現場デジタル化に向け、一から始めるスマートシンキング 〜欲しい仕組みは自分で作る〜」の内容を紹介する。
製造業における生産性向上やコスト削減の必要性が高まる中、ITを活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が認知されつつある。日本機械学会の生産システム部門に関わる分科会の有志メンバーが中心になって2015年に設立されたIVIは「つながる工場」をコンセプトに、デジタルデータでモノをつなげ、日本のモノづくりの高度化を目指している。そのために、各企業が共通で必要となる考え方や仕組み、ツールなどを数々用意し、スマート化を進める多くの製造現場で実証を通じて、使用されている。講演ではこれらの実績を基に、製造現場で自分たちで必要なITシステムを構築していくために必要な考え方としてIVIが定めた「スマートシンキング」を中心に、現場発のDXの進め方について紹介した。
西岡氏は、DXを始めるときには2つのパターンがあると指摘する。まず現在の業務プロセスの改善を進めるためにデジタル技術を活用する「守りのDX」(業務改善)と、データを活用して新たな業務のやり方やビジネスモデルなどを生み出す「攻めのDX」(業務改革)である。
「守りのDXは、現在の業務において“やるべきことをしっかりやる”ためにデジタル技術を効果的に活用するということが重要になる。やみくもにデジタル化を進めるのではなく、なぜ困っているのかなどの現状を正確に把握してからデジタル技術を導入する。一方、攻めのDXは、新たなサービスや顧客の開拓など、これまでできなかったことをできるようにするもので、ありたい姿から逆算でデータの活用方法を考えていくことが中心となる」と西岡氏は説明する。
守りのDXでは、スマートシンキングの観点から「問題発見」「問題共有」「課題設定」「課題解決」の4つのステージに分けて、そこで得られる知見や情報を典型的なモデルとして蓄積し共有できるようにしていく。「AS-ISモデル」「TO-BEモデル」などで現状を把握し、どうあってほしいのかを組織関係者で話し合い、共有する。そして「CAN-BEモデル」でどうすれば、それが実現できるかを考え、「CAN-DOモデル」で誰がいつまでにやるのかを考えていくサイクルとなる。
西岡氏は「スマートシンキングは、個人ではなく、組織がスマート(賢く、かっこよく)にさまざまな問題に取り組むための手法およびツールであり、ゴールは問題解決だけでなく、そのプロセスを通して、問題を解決し仕組みを構築するところにある。つまり、組織としての知恵を蓄積し、新たな仕組みを作ることが目標であり、そのサイクルが繰り返されることで組織そのものが強くなることに意味がある」と考えを述べている。
ただ、暗黙知に近いこれらの事象を組織内で属人的でない形で蓄積していくことは難しい。そこで、IVIではこれらのプロセスの典型的なパターンをまとめた16種類のチャートを使用し、それを基に知見の明示化を推進するようにしている。
例えば「困りごとチャート」では現場の具体的な困りごとを言葉にしたカードを出発点として、親和図のように構造化していく。現状をありのままに表現し、事実や課題を含めて問題のベースを明らかにする。「なぜなぜチャート」では、明らかになった事実や課題を関連図のように因果関係をもとに問題の構造化を行う。原因を理解した上で、取り組むべき課題を明らかにする。引き続き「やりとりチャート」において、現場レベルでの業務の流れを表現する。実際の業務の担当者を役者として定義し、具体的なモノや情報に対する役者の活動によって現場でのやりとりを示す。そして「見える化チャート」で、業務における情報の活用について、それを構成する情報項目のレベルまで詳細化する。
さらに、情報の意味について利用者および提供者の立場から整理するためのツールなども用意している。なお、それぞれのチャートでは、知識を構成する要素として事実と課題および目標が、特に最初の問題を共有するためのキーワードとなるが、現在の状況を明確化し、情報を共有化するためのツールとしてはスマートシンキング支援ツール(Smarer)などもIVIでは用意している。さらに、ノーコード開発ツール(Contexer)も用意し、課題認識からすぐにシステム化などへ容易に移行できるようにしている。
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