ここまでは、三和電子がどんなパーツを作っているのか、そしてどんな思いでボタンを作るのかを聞きました。ここからはいよいよゲームボタンの秘密に迫って行きます。三和電子の技術が詰め込まれたゲームボタン、さらには最新の静音ボタンまで、まとめて紹介します。
――三和電子のボタンはとても精巧な作りで、反応の良さはもちろん、反発やストローク(ボタンを押し込む距離)などの「押し心地」にもこだわっているように感じられます。追求しているポイントがあれば教えてください。
斉藤さん もちろん製品ごとに基準はあるのですが、それに加えて、メーカーやユーザーの声をできるだけ盛り込むのがポイントです。当社は営業担当も「ガチ」のゲーマーですから(笑)、営業担当からの意見を吸い上げることもありますね。そこに、長年積み重ねてきた経験がプラスされ、現在の製品の形になっています。
鵜木さん 開発側のこだわりを出すというよりも、ユーザーにフィットする製品を開発し続けた結果が、心地よいプレー感覚に結びついているのかもしれません。例えばボタン1つにしても、それを受けるバネやスイッチ(※1)などのバリエーションを豊富に用意しているので、ユーザー好みのストロークや反発力にカスタマイズできます。選択肢を増やすことで、多くのユーザーに適したプレー環境を提供できているとしたら、うれしいですね。
※1 ボタンの動きを信号に変換するパーツ。詳しくは下部の「ボタン豆知識」をご覧ください!
斉藤さん ただし、現実的な価格設定にするため、ある程度は汎用のパーツを使う必要があります。スイッチに関しては、現状はスイッチメーカーの製品を選定して使用することが多いです。世の中にはさまざまなスイッチがありますが、当社にはその中から何を重視して選べば良いかというノウハウがあります。これまで積み重ねてきた経験から、自社パーツと相性が良いと思われるものを採用しています。
――近年、eスポーツも盛り上がっていますし、プロゲーマー仕様のようなカスタマイズモデルも人気ですよね。
斉藤さん はい。現在は「家庭でも業務用に近い環境でゲームをしたい」というユーザーが多く、格闘ゲームやリズムアクションゲームなど、アーケード(業務用)スタイルのコントローラーを自身でカスタマイズして使うという流れが定着しています。皆さんには自由なカスタマイズでゲームを楽しんでいただきたいですね。
――操作の正確性やボタンを押したときの爽快感など、プレー感覚が大きく変化しそうです。私もぜひ、コントローラーをカスタマイズしてみたいと思います!
ボタンのメカニズムを簡単に説明すると、ボタンを押すことでスイッチに「オンになったよ!」という信号が流れ、それが機械に伝わる仕組みです。ボタンを押したとき、押しっぱなしにならずにボタンが戻ってくるのは、バネのおかげです。これら3つのパーツが密接に関わりあうことで、ボタンは役割を果たしています。
ボタン
ユーザーが実際に操作する部分で、押して使うおなじみのパーツ。プラスチックやエラストマー(ゴムのような弾性のある素材)などあらゆる素材が存在し、それぞれ耐久性などの特徴が異なる。
バネ(スプリング)
押されたボタンを元の位置に戻すために必要なパーツ。バネが強いと反発が強くなり、ボタンが元の位置に素早く戻るため、続けて入力をしやすくなる。一方でボタンを押す力も必要になるので、長時間のプレーは指先に疲労を感じることも。
スイッチ(マイクロスイッチ)
ボタンが押されたことを電気的な信号に変換し、機械に伝えるパーツ。高品質なスイッチは素早い反応時間を実現し、操作に対するレスポンスが飛躍的に上昇する。ボタンの下部に設置されており、押し心地やクリック感に大きな影響を与えるのも特徴。
――開発のお二人が気に入っている、あるいはオススメのボタンはありますか?
斉藤さん 「OBHS-24」というボタンです。24φ(直径24ミリ)というサイズのボタンにフルカラーのLEDとフォトセンサー(※2)を盛り込んでおり、技術的に気に入っています。当社がアークシステムワークスと協賛して製作したアーケードコントローラー「GUILTY GEAR Xrd -SIGN- Arcade Stick」に2カ所だけ採用されていますので、お持ちの方はぜひ探してみてください。
※2 ボタンが押されたことを光によって検出し、信号に変換するパーツ。
――鵜木さんはいかがでしょうか?
鵜木さん 私のお気に入りは、「SSの照光式」というボタンです。これは私が入社して最初に関わったボタンです。設計の基礎であったり、ボタンとしての機能、構造、全てがそこにあった気がして、思い入れが深いです。
斉藤さん やはり、良いものができたからといって、売れるとは限らないですね。大事なのは適正な価格であると思います。性能が良くても、適正価格を外れてしまえばやっぱり売れないですし。良いモノを作ったという自己満足で終わってしまってはダメですね。
しかし一方で、「では、売れればそれで良いのか」という思いもあります。売れたボタンは良いボタンですが、売れなかったボタンが悪いボタンと言い切れるものでもないですし、そのあたりは葛藤もあります。ただ、売れなかったボタンには必ず「売れなかった原因」がある、というのは確かですね。
――ボタンの話になるとスイッチが入って、とてもアツいお話が聞けました。オススメしていただいたボタンも、ぜひ探してみたいと思います!
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