いま、製造業で起きている2つの変化 加速するAI導入とマルチプラットフォーム戦略製造業は「AI×プラットフォーム」の時代へ(1)

製造業でも注目される「AI」。製造業向けDX戦略シリーズ第3弾の本連載では、クラウドERPなどのIT基盤へのAI搭載の流れについて解説する。第1回は、製造業の情報システムを取り巻く環境について、ここ2年間で起きた2つの大きな変化について紹介する。

» 2024年03月19日 10時30分 公開

 前回の連載終了から約2年が経過し、製造業の、特に情報システムを取り巻く環境には大きな変化がありました。そこで、まずは2023年10月にRootstock(ルートストック)USが実施した調査「State of AI in Manufacturing Survey(製造業におけるAIの現状)」の結果をもとに、いくつかの興味深いトピックを共有します。この調査は米国、カナダ、英国の製造業約350社を対象に実施しました。

 調査によると、回答者の70%が何らかの形でAI(人工知能)を導入しており、82%は2024年度にAI関連予算の増額を予定していることが明らかになりました。今後について、予測型AI(37%)、生成型AI(35%)に興味を示していることも分かりました。

 AI導入における最大の阻害要因として挙げられたのは知識不足(49%)です。次いで、統合の難しさ(43%)、実装コストの高さ(37%)が指摘されています。また、回答者は、AI運用にERPが不可欠だと考えており、今後3年間にAIが最も影響を与えるテクノロジー領域として、約半数にあたる47%がERPを挙げました。さらに、AI運用の際に最も重要な条件について、高品質かつ高精度のデータであると認識されている一方で、現行データに自信を持っていると回答したのは全体の37%にとどまっています。

 AIに仕事を奪われることを恐れているのは全体のわずか12%で、大多数(76%)は積極的なAI運用を望んでいます。また、ほとんどの回答者(91%)が、AIは製造業の将来に重要であると考えていました。

製造業の情報システムを巡る2つの大きな変化

 冒頭で述べた通り、ここ2年の間に、製造業の情報システムを取り巻く環境には2つの大きな変化がありました。

 1つ目は生成AIの導入拡大です。生成AIは1990年代のインターネット誕生以来の革新的な技術とされ、第3次AIブームで急速に発展、普及しました。生成AI関連サービスを提供する企業間の競争は激化しており、ChatGPTを開発した米国OpenAIで2023年11月に起きたCEO(最高経営責任者)解任騒動は記憶に新しいところです。

 2つ目は「マルチプラットフォーム」の概念で、その背景にあるのは、欧米の主要IT企業におけるクラウドビジネス収益の大幅な進展です。Salesforce、Rootstockなどのクラウドアプリケーションベンダーだけではなく、多くの主要IT企業でも、クラウドビジネスの売上構成が従来のオンプレミスビジネスを上回っています。こうした市場動向の中で、今後の課題となっているのがマルチプラットフォーム連携です。

 それでは、この2つの大きな変化について、もう少し詳しく見ていきましょう。

クラウドアプリケーションにおけるAI:製造業者にとって最も重要なものは?

 AIの活用については、GPTシリーズが採用するような自然言語処理技術をアプリケーションロジックに組み込む動きも広がっています。そのメリットは、AIがクラウドアプリケーションと同様の環境で動作することです。実際に多くのクラウドアプリケーション製品でAIの実装が進んでいます。

 例えば、Salesforceは2016年にSalesforce Einsteinをリリースし、そのプラットフォーム上で誰でもAIを利用できるようにしました。さらに、2023年にはEinsteinGPTを発表し、主要なビジネス管理アプリケーション分野で普遍的なAIを使用する初めての事例となりました。AIに対する需要は高まっており、今後数年で多くのクラウドアプリケーションベンダーが同様の統合を予定しています。

シングルプラットフォーム対マルチプラットフォーム戦略:統合と協力の実現

 多くのクラウドアプリケーションは、SalesforceやAzureなどのプラットフォームのPaaSモデル上で運用されています。大企業では、クラウドアプリケーションを複数のプラットフォーム上で稼働するマルチプラットフォーム環境が普及しています。現在、それぞれのプラットフォームは固有の環境とツールを持っていますが、将来に向けて、異なるマルチプラットフォーム間の互換性を確保することが課題となっています。

 製造業の多くは、自社のオペレーションの大部分を単一のクラウドプラットフォーム上で統合したいと考えています。IDCが2023年に行った調査によれば、製造業では分断されたシステムとデータの孤立を問題視しており、大多数(77.1%)がシングルプラットフォームアプローチを検討すると回答しました。

 シングルプラットフォーム環境では、多様なソフトウェアがプラグ&プレイで運用できます。このアプローチは企業全体でのデータ一元管理と360度可視性を実現し、さらに、リアルタイムのデマンドチェーンとサプライチェーンの情報が接続する「製造シグナルチェーン」の構築を可能にします。シグナルチェーンを構築することで、「需要」「供給」「生産能力」をより容易に調整できるようになります。

 次回は、クラウドERPの利点と展望について詳しく解説します。

≫連載「製造業は「AI×プラットフォーム」の時代へ」の目次

筆者紹介

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栗田 巧(くりた たくみ)
Rootstock Japan株式会社代表取締役

経歴
1995年 マレーシアにてDATA COLLECTION SYSTEMSグループ起業。タイ、日本、中国に現地法人設立
製造業向けERP「ProductionMaster」とMES「InventoryMaster」リリース
2011年 アスプローバとの合弁会社Asprova Asia設立
2017年 DATA COLLECTION SYSTEMSグループをパナソニックグループに売却。パナソニックFSインテグレーションシステムズ(株)代表取締役就任
2020年 Rootstock Japan(株)代表取締役就任


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