一方、リアルタイム処理が可能なヘテロジニアスアーキテクチャ技術では、AIアクセラレータとは別途用意したDRPが重要な役割を果たしている。
ロボットアプリケーションでは、周辺環境の認識などに高度なビジョンAI処理が求められる。一方、ロボットの行動判断や制御では、周辺環境の変化に応じて条件を細かくプログラムする必要があるため、AIではなくCPUによるソフトウェア処理が適している。この時、現在の組み込みプロセッサのCPUでは、リアルタイムに動作を制御するための性能が足りないことが課題になっている。
新たに搭載したDRPは、チップ内の演算器の回路接続構成を処理内容に応じて動作クロックごとに動的に切り替えながらアプリケーションを実行できる。複雑な処理でも、必要な演算回路だけが動作するため、消費電力が小さく、高速化も可能である。例えば、ロボットアプリケーションの代表例の一つであるSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)は、カメラやLiDARなどを用いたビジョンAI処理による環境認識と並行して、ロボット位置認識のための複数のプログラム処理が必要になる複雑な構成だ。これをDRPによって瞬時にプログラムを切り替えながら実行しつつ、さらにAIアクセラレータやCPUと並列動作させることで、組み込みCPU単独でのSLAM動作に比べて約17倍の高速化や、約12分の1までの消費電力低減などが可能なことを実証した。
ルネサスは、新開発の技術を搭載した組み込みAI-MPUのテストチップも試作している。通常の電源電圧(0.8V)におけるAIアクセラレータの最大電力効率は「世界トップレベル」(ルネサス)の1W当たり23.9TOPSを達成し、主要なAIモデル動作時の電力効率でも1W当たり10TOPSを出せることも確認している。
AI処理性能や電力効率、それぞれの数値だけを見ると競合他社のAIアクセラレータが上回る事例もあるが、ルネサスとして最も重要な特徴としているのが、ファンレス動作が可能な点である。同じAIモデルのリアルタイム処理を行う場合、競合他社の組み込みGPUボードはヒートシンクと冷却ファンが必要だが、ルネサスの新技術を組み込んだAI-MPUはこれらの冷却システムがなくても安定的に動作する。
今後ルネサスは、ビジョンAIアプリケーション用MPU「RZ/Vシリーズ」で、新開発の技術を搭載した製品を早期に投入する方針。サービスロボットやAGV(自律搬送車)をはじめ、多様な組み込み機器へのAI実装における課題となっていた消費電力の増大による発熱の解決が可能であり、ロボティクスやさまざまな機器をスマート化する用途で自動化の拡大に貢献できるとしている。
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