ルネサス エレクトロニクスは、半導体技術の国際会議である「ISSCC 2024」において、マイコンに搭載する不揮発メモリ向けとしてSTT-MRAM(MRAM)の高速読み出し可能な技術と、書き換え動作の高速化を実現する技術を開発したと発表した。
ルネサス エレクトロニクスは2024年2月21日、半導体技術の国際会議である「ISSCC(International Solid-State Circuits Conference) 2024」(2024年2月18〜22日、米国サンフランシスコ)において、マイコンに搭載する不揮発メモリ向けとしてSTT-MRAM(スピン注入磁化反転型磁気抵抗メモリ、以下MRAM)の高速読み出し可能な技術と、書き換え動作の高速化を実現する技術を開発したと発表した。22nmのロジック混載プロセスによって10.8MビットのMRAMのメモリセルアレイを搭載したマイコンテストチップを試作し、200MHz以上のランダムアクセス周波数と、10.4MB/sの書き換えスループットを達成した。技術としての完成度が高まりつつあることから、今後はMRAM搭載マイコンを製品化していく段階になるという。
今回開発したのはMRAMの「高速読み出し技術」と「高速書き換え技術」、1回だけ書き込みが可能な「MTJ(磁気トンネル接合)-OTP(One Time Programmable ROM)」である。
MRAMの読み出しは、差動増幅回路(センスアンプ)でメモリセル電流と参照電流を比較し、その大小関係を判定することによって行うのが一般的だ。ただし、MRAMはフラッシュメモリに対して“0”状態と“1”状態のメモリセル電流の差(リードウィンドウ)が小さく、高速で読み出しを行うためにはリードウィンドウの真ん中に参照電流を正確に合わせ込む必要がある。今回の開発成果では、テスト工程においてチップごとに実際のメモリセルの電流分布を見てリードウィンドウの真ん中が参照電流と一致するように調整する機構と、センスアンプのオフセットを低減する機構を搭載する構成を採用。2段階に分けてこれらの調整を行うことで、MRAMの読み出しの高速化を実現した。
また、MRAMの読み出しでは、ビット線の電圧が高くなりすぎるとメモリセルの状態が変わる(リードディスターブ)が起こらないような回路構成を取る必要があるが、この回路部分の寄生容量が大きく読み出し動作に時間がかかる要因になっていた。今回の開発成果では、回路構成をカスコード接続とすることによって寄生容量を低減し、読み出しの高速化につなげている。
これらの技術の組み合わせることで、MRAMのランダムリードアクセス時間で「世界最速」(ルネサス)となる4.2nsを達成したという。これによりMRAMの出力データを受けるインタフェース回路のセットアップ時間を考慮しても200MHzを超える周波数でのランダムリード動作が可能になる。
一方、MRAMの高速書き換えでは、2021年12月の「IEDM(International Electron Devices Meeting) 2021」において、マイコンチップの外部電圧(I/O用電源)からの降圧によって発生した比較的低い書き換え電圧で全ビットに同時に書き込み電圧を印加して大多数のビットを書き込み、それで書き込めなかった少数のビットのみを高い書き換え電圧を用いて書き込む技術を発表している。
今回の開発成果は、半導体のテスト工程やセットメーカーにおける不揮発メモリへの書き込み時には電源環境が安定していて、外部電圧の下限電圧を高くできることに着目。第1段階で全ビットに印加する外部電圧からの降圧電圧を高く設定することにより、書き込みスループットとしてIEDM 2021での発表と比べて1.8倍高速となる10.4MB/sを実現した。
さらに、今回の開発成果を組み込んだテストチップには、MRAMのメモリセルの絶縁破壊を用いて一度書き込むと改ざんできないMTJ-OTPを0.3Mビット搭載しており、セキュリティ情報などの格納に用いることができる。OTPの書き込みには通常のMRAM 書き込みよりも高電圧の印加が必要となり、特に供給電圧の安定度が低くなりがちなフィールドでの書き込みの難易度が高くなるが、メモリセルアレイ内の寄生抵抗を抑えるように工夫することでフィールドでも書き込みも可能になったとする。
なお、今回の発表に用いたテストチップは22nmプロセスを用いているものの、開発したMRAM技術は全て16nmプロセスにも適用可能である。
近年、IoT(モノのインターネット)化の加速やAI(人工知能)技術の進歩などにより、エンドポイント機器に用いられるマイコンにもより高い処理性能が求められている。高性能マイコンのCPUクロック周波数は数百MHzクラスに達しており、ルネサスのハイエンドArmマイコンである「RA8」の場合で480MHzとなっている。
さらなるマイコンの高性能化では、プログラムコードを格納する混載不揮発性メモリの読み出しや書き込みの速度の向上も必要になる。現行のマイコンで混載不揮発性メモリとして広く利用されているNOR型フラッシュメモリの場合、リード周波数は100MHz程度が上限となっている。一方、MRAMはマイコンに混載する次世代の不揮発性メモリとして開発が進められてきたが、NOR型フラッシュメモリと比べて読み出しマージンが小さく、読み出し速度の高速化に課題があった。
今回の開発成果により、NOR型フラッシュメモリを上回る200MHz超というリード周波数をはじめ、マイコン混載MRAMの実用化における課題をクリアできたことになる。試作したテストチップもマイコンとの混載を前提とした回路設計となっており、今後ルネサスはMRAM混載マイコンの製品化に向けた開発を進めていく方針である。
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