デジタルツインを実現するCAEの真価

Simulation Governanceの活用カテゴリー「活用場面」の診断結果シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜(7)(3/4 ページ)

» 2024年02月13日 09時00分 公開
[工藤啓治MONOist]

活用カテゴリーの「活用場面」に着目

 さて、準備説明がだいぶ長くなりましたが、このVプロセスのどの場面でCAEを活用するかは、「Simulation Governance(シミュレーションガバナンス)」の、どのテーマを議論する上でも基本認識となりますので、ぜひとも理解いただく必要があるのです。設問の中でもCAEの活用場面について最初に聞いています。では、診断結果の分析に移りましょう。

C1「Vプロセスの位置付け」

 C1「Vプロセスの位置付け」の設問は、“設計開発プロセスで、CAEが活用される最も早い段階はいつでしょうか?(レベル1〜5に上がるにしたがって早い段階と定義しています)”となっています。

  • レベル5:先行技術検討から活用しているのが最も早い段階
  • レベル4:基本設計段階
  • レベル3:詳細設計段階
  • レベル2:出図後の検証やトラブル・シューティングのみ
  • レベル1:トラブル・シューティングのみ

 上記の選択肢の中から、主かどうかは別にして“最も早い段階“としていますので、比較的点数のレベルが高くなっているようです。“主たる活用段階”という設問にしていたら、おそらく平均は1ポイント近く下がっていた可能性があります。

C2「Vプロセスの認識」

 C2「Vプロセスの認識」の設問である“主だったCAE利用者に、Vプロセスの中での活用効果はどの程度認識されているでしょうか?”に対して、ヒストグラムを見ますと、レベル5が1社のみで他はレベル3以下、レベル2が最多となっています。レベル3が“おおむね認識されてはいるが、現状を変える動きにはなりにくい”であることから、ここは大いなる課題であることが分かります。

 先ほどのC1では、一見設計の早い段階で使われていて、Vプロセスの認識は進んでいるように見えたものの、実体としては、あまり意識せずに使われている状況にあるようです。Vプロセスの意識が低いということは、Vプロセスの左側にシフトしなければならないという意識自体も低いであろうことが推察されます。

 C1とC2に関係する例を一つ紹介しましょう。実は、今回の診断を実施する何年か前に、この活用場面の図を使い、いくつかの企業に対して、現在利用されているさまざまなCAEテーマがどの段階にあるかを調査し、平均的なマップを作成したことがあります。その結果、得られた典型的な活用場面のパターンは以下のようなイメージとなりました。

VプロセスでのCAE活用場面の実際例イメージ 図4 VプロセスでのCAE活用場面の実際例イメージ[クリックで拡大]

 Vプロセスの左側での活用が少なく、Vプロセスの右側が主体になっている状況です。3D-CAEはたくさん行われているが、出図前後の慌ただしいスケジュールの中で追われて実施しており、実体としては問題が起こった場合の解決道具としての役割が主になっています。

 このマップ化を実施したある企業では、可視化インパクトがあまりにも大きかったので、いかにVプロセスの左側に移行すべきかを議論し、数年かけて半分ほどのテーマをVプロセスの左側に移したそうです。こちらの例からも分かるように、Vプロセスの中での効果を組織として意識するだけで、危機感が生まれ、改革の動機と実践になり得るのです。

C3「活用効果の測定」

 C3「活用効果の測定」の平均値は2.04と低めであり、ヒストグラムでもレベル1と2が主で、ほぼレベル3以下となっています。

  • レベル3:一部のCAE領域やプロセスで活用効果指標があり、定量的に測定できている
  • レベル2:一部のテーマ/領域で、活用効果を算定したことがあるが、継続できていない
  • レベル1:活用効果を算出したことがない

 レベル1〜3の選択肢は上記の通りですので、CAEが何にどの程度役立っているのかを判定する指標に苦慮しているか、全く意識されていない状況が見えます。CAEのソフトウェアやハードウェアを導入したり、人材を増やしたりするには当然投資が必要です。しかし、実際のところ、投資に見合う成果が出ているかどうかを判定し、要求を挙げたくとも、効果測定がなされていなければそれはかなわず、結果として、なかなかリソースが増えにくいであろうことが容易に推察できます。

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