続いて企業の資本勘定を見てみましょう。
1990年に向けて純借入が大きくなり、その後1990年代後半に向け縮小していき、1998年からプラス、つまり純貸出に転換していますね。
とても重要な変化です。バブル崩壊までは企業が固定資本形成(純)を増やし、事業活動への投資を増やしていました。バブル期にその水準が急激に増大して、その後は減少傾向になっていますね。貯蓄(純)は、1990年代後半から増大していますので、純貸出の状態も高い水準で推移しています。
1998年に資本移転(受取)が大きくプラスになっているのも目立ちますが、何でしょうか?
何かの補助金や、借入の棒引きなどが考えられますね。次の政府の資本勘定を見ると分かるかもしれません。
上のグラフが政府の資本勘定を表現したものですが、バブル崩壊までは貯蓄(純)が増えるのにつれて、純借入/純貸出もプラスに変化しています。
ただ、1990年のバブル崩壊後は急激にマイナスに転じていますね。そして、1998年に資本移転(支払)が大きく増えた分で、急激にマイナスが増えています。
はい、先ほどの企業の1998年の資本移転(受取)に関連しそうですね。これは日本国有鉄道の民営化を受けて、一般政府がその債務承継(24.2兆円)を行い、資本移転として計上している分のようです。
ただし、一般政府もこのあたりから純借入/純貸出が大きくマイナスの状態が継続しています。そして、固定資本形成(純)はほぼゼロとなってしまっていますね。
時系列でみると、やはりバブルとバブル崩壊、そして1998年以降の挙動の変化が大きいような印象です。
そうですね、金融取引を見るとそれが明確になるかもしれません。今回はひとまず以上としますが、せっかくですので次回は総固定資本形成について詳しく見ていきましょう。
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小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
古川拓(ふるかわ たく)
TOKYO町工場HUB 代表
京都大学法学部卒。バンカーとして日米で通算15年間勤めたのち、2004年に独立。技術と創造力で社会課題の解決を促すソーシャルデザイン/プロデュースの道を進む。自ら起業家として活動しつつ、ベンチャーファンドの取締役、財団理事等を歴任し、国内外で活動してきた。
2017年よりスタートアップのエコシステム構築を目指すTOKYO町工場HUBの事業を開始。さらに2022年より和文化(工芸、芸能、食文化)を海外向けにプロデュースするTokyo Heritage Partnersを立ち上げ、現在に至る。
2009年〜2020年:東京大学大学院新領域創成学科の非常勤講師(持続可能な社会のためのビジネスとファイナス)を務めた。現在、東京都足立区の経済活性化会議他、東京観光財団エキスパート(ものづくり分野担当)、各種審議委員会の委員を務める。
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