カネカがAIシステムで樹脂プラントの乾燥設備を最適運転、年間100t増産マテリアルズインフォマティクス(2/2 ページ)

» 2023年11月15日 08時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]
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高度データ活用技術者の育成方法とは?

 生産DXを支える高度データ活用技術者は、対象工場の課題を見極め、工場の運転、画像、文章、生産のデータを用いて、生産の最適化、生産品の品質および設備異常の自動予測/分類分け、ビジュアライゼーションが行える人材を指す。

高度データ活用技術者のイメージ[クリックで拡大] 出所:カネカ

 2018年から開始したカネカの高度データ活用技術者教育では、各データを用いた生産の最適化、生産品の品質および設備異常の自動予測/分類分け、ビジュアライゼーションの方法を対象者に教えている。教育期間は1年間で、各製造現場からの応募、受講者のテーマの決定、事務局のテーマ選定、講義(Off JT)、テーマの実施(OJT)、プレゼンで成果を披露する最終発表会の順に行う。「データ活用技術者教育の成果について一例を挙げると、データ活用技術の単語は分かるがそれを用いてテーマを進められないという社員でも、この教育を受けた後は、有識者のサポートを受けてある程度のテーマを推進できるようになった」(水野氏)。

高度データ活用技術教育の成果[クリックで拡大] 出所:カネカ

 加えて、教育プログラムで学んだ技術を実践させるために、受講者には担当する現場から1つのテーマを持ち寄らせ、このテーマに研修で学ぶデータ解析技術を適用し、実際の業務へ組み込み、その成果も確認する。そのため、受講者は継続的なビジネス成果の創出が見込めるテーマを選択しなければならない他、担当する現場のスタッフと共同でAIモデルの構築と精度改善を行う必要がある。実際の業務プロセスへデータ解析技術を適用する際には、通常のシステムと同様のリスクアセスメントを実施し、現場スタッフがAIモデルの運用と精度を監視する。

樹脂プラントの連続乾燥設備を最適運転した事例

 高度データ活用技術者教育の受講者がその教育を生かして生産性を高めた事例として、樹脂プラントに設置された連続乾燥設備の最適運転を実現したケースがある。この樹脂プラントでは、温度、排気湿度などの制約条件の下で、オペレーターが、上流工程で生産された中間体の乾燥工程を行う連続乾燥設備の運転条件を調整していた。連続乾燥設備では、設備の各所で温度目標設定値を定め、その設定値をベースにフィードバック制御を行い、中間体の供給量やヒーターの蒸気量をコントロールしていた。

樹脂プラントの連続乾燥設備を最適運転した事例[クリックで拡大] 出所:カネカ

 そのため、中間体の供給量や外気温などの変動と排気温度の制約を考慮し頻繁な手動調整が必要だった。調整ではノウハウが必須なため新人では対応できず、高精度な挙動予測や作業員の常時監視も難しく無駄な運転も発生していた。「乾燥設備のヒーターで蒸気量を下げる余地があったが、人が常時張り付いて操作できなかった。ノウハウがないと設定値の決め方が分からないなどの課題もあった」(水野氏)。

 そこで、AIを備えたシステムを開発し、樹脂プラントに設置された連続乾燥設備の最適運転を実現した。このシステムは、連続乾燥設備各所の温度設定を基にフィードバック制御される中間体の供給量とヒーターの蒸気温度をAIにより自動で予測する。次に、この予測値をベースに、中間体供給量の向上とヒーターの蒸気使用量削減という目標に沿った運転条件の設定値をAIが自動で算出。算出された運転条件の設定値は専用のアプリケーションにより制御システムに自動で反映する。

AIを備えたシステムによる課題解決のイメージ[クリックで拡大] 出所:カネカ

 具体的には、連続乾燥設備の各所で設定した温度目標設定値を表示した計器から、新規導入したロガーソフトにより設定値の情報を自動で取得し、AIプラットフォームのデータベースに送る。次に、AIプラットフォームのデータベース上にAI/機械学習プラットフォーム「dataiku」で構築した自動実行システムプロジェクトによりそのデータを読み込み、前処理する。続いて、そのシステム上に搭載されたAIで、前処理したデータから中間体の供給量とヒーターの蒸気温度の予測や最適な運転条件の設定値の算出を行う。その後、最適な運転条件の設定値を制御システムに送信するとともに、ロガーソフトを介して連続乾燥設備の計器に反映する。

AIを備えたシステムの詳細[クリックで拡大] 出所:カネカ

 このシステムにより生産量とヒーターの蒸気使用量の改善や品質の安定化、標準化と自動化による属人作業からの脱却を実現し、年間100tの増産効果も達成した。

高度データ活用技術教育とAIプラットフォームの現状

 現在、高度データ活用技術教育を受講した人数の累計は100人を超え、各現場ではAI活用のテーマに延べ100件以上取り組んだ。全社員対象のDXリテラシー教育も実施している。一方、AIプラットフォームについては国内5工場で展開を実施中で、将来のグローバル展開を見据え、マレーシアの拠点で一部の適用を検討中だ。

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