三菱電機は東京大学大学院工学系研究科と共同で、サーキュラーエコノミーの実現に向けた課題解決を目指す社会連携講座「持続可能な循環経済型未来社会デザイン講座」を開設した。
三菱電機は2023年10月5日、東京大学大学院工学系研究科と共同で、サーキュラーエコノミーの実現に向けた課題解決を目指す社会連携講座「持続可能な循環経済型未来社会デザイン講座」を同月1日に開設したと発表した。循環型社会を実現する上でのボトルネックの明確化や、その解決に必要な要素技術、法制度の在り方などを検討する。
「持続可能な循環経済型未来社会デザイン講座」は、未来社会の姿について議論することを目的に、2023年4月に設立した共同研究体「三菱電機−東京大学・未来デザイン会議」の活動から生まれた。同会議は三菱電機の事業経験に基づく知見と東京大学の学術的な知見を組み合わせて、社会課題の解決を通じて新しい価値をオープンな環境の中で生み出すことを目指す組織だ。さまざまな社会課題の中でも企業単独では解決が難しい「サーキュラーエコノミーの実現」に注目し、解決の方策を議論する場が必要であることから今回の講座の創設に至った。
今回の講座は2023年から2026年までの約4年間、東京大学大学院工学系研究科に設置する予定だ。講座長には東京大学 工学研究科 電気系工学専攻 教授の熊田亜紀子氏が就任し、この他、同研究科 人工物工学研究センター 教授の梅田靖氏や同研究科 技術経営戦略学専攻 准教授の田中謙司氏、精密工学専攻 准教授の木下裕介氏、同研究科 技術経営戦略学専攻 特任講師の木見田康治氏が講座に参加する。三菱電機からは事業部や研究部から10人ほどを派遣する。
講座は運営管理を行うチームと研究開発を行うチームを分離して組織した上で、サーキュラーエコノミー実現に必要な検証を行うプロジェクトを一丸となって推進する。エコシステムの全体設計に加えて、分解しやすい製品の研究開発や情報のトレーサビリティーを確保するための仕組みなどを検証する5つのワークパッケージ(作業単位)で構成される。
講座では主に、サーキュラーエコノミーに関与するステークホルダーの経済合理性をいかに確保するか、という問題に取り組む。今後、サーキュラーエコノミーのエコシステムが成熟していくためには、個々のステークホルダーにとって、参加に伴うコスト負担が許容可能であるか、コストに見合うメリットを享受し得るシステムになっているかなど、検討すべき課題が幾つもある。
このために講座では、三菱電機が保有する事業や製品をモデルケースとして、同社と東京大学がエコシステム全体をモデル化した上でシミュレーションを行い、サーキュラーエコノミー実現に向けてステークホルダーが果たすべき役割や、民間企業にとって最適なビジネスモデルの在り方、求められる法制度などを検討する。現時点で、モデル化の対象となる三菱電機の事業領域は具体的に定まっていないが、主に空調機器やFA機器などの量産品が候補となっているという。サーキュラーエコノミーに適した製品の設計、回収や交換の仕方などを含めて検討する。
研究成果は年1回記載するオープンフォーラムや学会、Webサイトなどを通じて発信する。今後は行政や国への政策提言や、他企業との連携も視野に入れつつ活動を進めるとしている。
三菱電機はこれまでにも家電製品に使用されたプラスチックを、独自の選別技術を用いて高純度なプラスチック素材に再生するリサイクルの取り組みを進めてきた。2022年からは家電製品だけでなく、日用品に使われるプラスチック素材にも技術を適用するための検証を始めている。
ただ、サーキュラーエコノミーの実現にはリサイクルだけでなく、リユースやシェアリングといった活動も求められる。社会全体で資源の利用効率を向上させる必要があるからだ。長年にわたってサーキュラーエコノミーに関する知見を蓄積してきた東京大学と連携することで、企業の枠を超え、循環型社会実現に向けた取り組みをさらに飛躍させることを目指す。
三菱電機 専務執行役 CTOの加賀邦彦氏は「サーキュラーエコノミーを事業にどう取り込んでいくか。これは非常に大きな課題だ。本講座を通じて、まずはどのようなブレークスルーが必要か、何がボトルネックになっているのかをクリアにする。その上で、サーキュラーエコノミー実現に適した製品の提供だけではなく、リースやサブスクリプションなどのビジネスモデルの検討も含めて行う必要がある」と説明した。
また、東京大学大学院工学系研究科 研究科長 教授の加藤泰浩氏は、「本学は長年にわたりサーキュラーエコノミーに関する知見を蓄えるとともに、その実践を進めてきた。一方で、三菱電機は事業をグローバルに展開してきた経験や事例をベースに、研究開発に取り組んできた。両者の連携によって、大学が蓄積してきた知の社会実装を進めるとともに、社会の現場で生じている課題を研究に反映することで、知をさらに極めていけるものと考えている」と語った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.