サステナブルなモノづくりの実現

デジタルモノづくりで試作回数を削減し、サステナブルな未来へ踏み出そうサステナブル設計とデジタルモノづくり(4)(2/3 ページ)

» 2023年09月05日 09時00分 公開

XRの活用

 「XR(Extended Reality/Cross Reality)」とは、現実世界と仮想世界を融合し、現実にはないものを知覚体験できる技術のことで、「VR(仮想現実)」「AR(拡張現実)」「MR(複合現実)」などの包括的な総称です。XRは、DMUツールでの検証よりも、より現実世界に近い体験の中で検証を行うことができます。

(左)筆者がVRを体験している様子/(右)AR(eDrawings)でタブレット端末に3Dモデルを表示している様子 図3 (左)筆者がVRを体験している様子/(右)AR(eDrawings)でタブレット端末に3Dモデルを表示している様子[クリックで拡大]

 以下、VR、AR、MRの特長や活用イメージについて簡単に説明します。

VR(仮想現実):Virtual Reality

 VRは仮想世界を没入体験できる技術です。専用のVRゴーグル(HMD:ヘッドマウントディスプレイ)などを装着し、仮想世界上に投影された実物サイズの製品(3Dモデル)を確認しながら検証できます。ヘッドトラッキング機能により、VRゴーグルを装着した人の頭の傾きを検知し、好きな角度から周囲を見渡すことが可能です。

 VRの活用により、試作品を製作する前段階で、事前に組み立て性や操作性、安全性などについて検証できます。また、仮想世界に没入し、実物サイズで確認できるため、3D CADの画面上では感じなかったことに気が付いたり、使用者の視点や姿勢を体験することで課題を発見したりなど、実物を縮小して作成されるスケールモデルによる検証では得られないメリットがあります。

 最近では、CAEによる解析結果をVR空間に投影して確認/検証するといった利用や、遠く離れた場所にいる複数の関係者が同じ仮想世界に入り、リアルタイムでレビューを実施するなどの活用も可能となっています。

 製品だけでなく、工場の生産設備や生産ラインのレイアウトの確認/検証などにもVRが活用されています。例えば、工場の点群データと新規設備の3Dモデルを用いて、仮想世界の中で設置場所を検証することもできます。また、VRコントローラーで工場内を歩いたり、モノをつかんで作業性を確認したりすることも可能です。

 さらに、VRは教育コンテンツとしても有効で、現場作業に伴う危険なシチュエーションなどをバーチャル上で体験させる安全教育や、繰り返し失敗できるメリットを生かした作業トレーニングなどにも活用されています。

 VRの方式には、スマートフォン搭載型、PC接続型、単体(スタンドアロン)型などいくつかの種類があります。スマートフォン搭載型は、VRアプリケーションを起動したスマートフォンを安価なVRゴーグルに取り付けることで仮想世界を体験できます。PC接続型は、PCとVRゴーグルを有線ケーブルで接続して使用するものです。高画質で見られるのがメリットですが、ハイスペックなPCと高価なVRゴーグルなどの設備投資が必要となります。単体型は、VRゴーグル単体で使用できますが、画質はPC接続型と比べて一般的に劣ります。PCとケーブルが不要なため、使い勝手が良いのが特長です。

AR(拡張現実):Augmented Reality

 ARは、現実世界に仮想世界を重ね合わせて体験できる技術です。有名なものとして「ポケモン GO」があります。スマートフォンやタブレット端末、スマートグラスなどを介して、現実世界の上に3Dモデルや3D CG、画像などのARコンテンツを表示できます。

 例えば、装置の保守やメンテナンス時に作業指示やマニュアルを表示させることでペーパーレス化を実現できます。また、遠隔地と接続し、音声やARに映像を表示して手順や案内を行うことも可能です。VRと同様に教育コンテンツとしての活用も期待できます。

 ARにはいくつかの種類があり、代表的なものとして、ロケーション型、マーカー型、マーカーレス型があります。ロケーション型はGPSで位置情報、電子コンパスで方角などを特定し、ARコンテンツを表示させます。マーカー型はQRコードなどのマーカーをデバイスのカメラで認識することでARコンテンツを表示します。これに対し、マーカーレス型は対象物の特長点を認識してARコンテンツを表示できます。

MR(複合現実):Mixed Reality

 MRは、ARをさらに発展させた技術です。現実世界と仮想世界を複合/融合させ、相互にリアルタイムに体験できます。現実世界に投影された仮想世界の物体を自由な視点から確認ができます。また、近年では、現実世界に映し出した3Dモデルの形状をリアルタイムで修正できる技術の開発も進んでいます。これが実現可能となれば、現物の試作品で検証する以上に素早く設計変更が行えるようになります。とても楽しみな技術です。

 MRは、VRやARに比べて技術が発展途上で、活用が進んでいるとはいえませんが、5Gの普及に伴い製造業でも採用が進んでいくと思われます。有名なデバイスとしては、Microsoftの「HoloLens 2」やMetaの「Meta Quest Pro」がある他、2023年6月に発表されたAppleの「Vision Pro」も注目されています。

動画1 Introducing Dynamics 365 Remote Assist for HoloLens 2 and mobile devices 出所:Microsoft HoloLens

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