製造業が目指すべき部門連携とデータ活用の姿 〜共通言語を生み出す設計部門〜大変革時代の設計者 部門連携とデータ活用の重要性(6)(2/2 ページ)

» 2023年09月04日 09時00分 公開
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事例:わずか6カ月で全社横断のデータ活用に成功

 ここで、実際に図面データ活用システムを新たに導入して、全社の業務改革を推進した富士油圧精機の事例を紹介しましょう。

 同社は創業から50年以上、製本/印刷業界を主軸に、さまざまな業界に向けた自動省力化機械の開発、製造、販売を行ってきた企業です。以前は、紙も含めた膨大な図面を探し出すのに時間がかかり、資産として全く活用できておらず、設計開発力が減少する課題を抱えていました。業務拡張の兆しがある一方で、他にも業務の属人化、離職者の増加、生産性低下など、全社にかかる悩みは尽きません。

 そこで、現状を根本から変えていくことを決めた同社は、図面データ活用クラウド「CADDi DRAWER」を採用。多くの図面資産をデータ化し、発注データや付加情報とひも付けて蓄積、管理、活用する改革を始めました。調達/見積もりの部署で「図面を探す」仕事にかかる時間が95%以上減少し、短期間で目に見える形で成果が上がると、わずか半年間で加工、製造組み立て、設計、営業など全社横断で導入が進み、現在もさらなる業務効率の向上と高度化が進んでいます。

図面データ活用システムの導入により、全社の業務改革を推進する富士油圧精機 図面データ活用システムの導入により、全社の業務改革を推進する富士油圧精機[クリックで拡大] 出所:キャディ

 設計部門では、図面の検索が一瞬でできるようになり、設計作業の効率化や製造ミスの低減、見積もりの適性化を実現しています。さらに、従業員から図面データの活用を介した業務改善の提案が出てくるようになり、新規事業開発への取り組みも始まりました。思わぬ効果として、リモートワークも可能となり、人員の適切配置や中途採用など組織への良い影響も出ています。図面データ活用により、会社全体を巻き込む大きな変化が起きたのです。

 当初は新システムの導入に懐疑的な声も上がっていました。これまで「これが自分たちの仕事だ」と思い込んでいた部分があり、システムで仕事の問題を解決できるはずがないと考えていたのです。しかし、導入後に考えは大きく変わります。いつでも、どこでも、誰でも、現在、過去の図面データを扱えて、資産として生かせることが、業務ひいては経営の改善につながると現場で実感できたことが要因だといえるでしょう。

 大きな変革が起きている昨今の社会情勢において、これからの製造業では、スピード感を持って柔軟に変革に対応できる体制、そして、推進する意思と行動力が求められます。それにより、データ活用の効果も全社最適化されていくでしょう。

ECMとSCMの連携でモノづくり産業のポテンシャルを解放する

 連載第1回で「大変革時代の製造業では部門間連携を強め、サプライチェーン全体を俯瞰して、製造プロセス全体の最適化を図ることが求められる」と述べました。部門間連携強化のためにはデータ活用が欠かせず、部門を越えて活用されることが必要です。

 製造業における情報の管理、共有、活用を最適化するための手法として「ECM(エンジニアリングチェーンマネジメント)」と、「SCM(サプライチェーンマネジメント)」があります。EMCは設計や製造、保守など、設計や製造部門で扱われる製品や技術に関係する情報を扱うものです。SCMは原材料数や製品在庫、顧客情報など、調達や購買、営業部門が関係する情報を扱います。これらの情報は連携されず、別々に扱われていることが今までは一般的でした。ECMとSCMとが連携することにより、相互に多くの効果をもたらします。そのデータ連携を加速させるキーとなるのが、埋もれている図面データです。

 図面データを「製造プロセス全体をつなぐ共通言語」として活用して全ての部門のデータが連携されれば、製造業は大きく変わります。設計は、その図面データを生み出す部門です。設計者自らが積極的に働き掛け、図面データ活用による部門間連携を進めることが、「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」ことにつながっていくのです。 (連載完)

図面データ活用による部門間連携強化が「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」ことにつながっていく 図面データ活用による部門間連携強化が「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」ことにつながっていく[クリックで拡大] 出所:キャディ

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筆者プロフィール:

白井 陽祐(しらい ようすけ)
キャディ株式会社 DRAWER事業部 事業責任者

株式会社フリークアウトにて、SMBからナショナルクライアントまで幅広い顧客にDSP/アドネットワークの提案、DMPの導入支援などを行う。2019年6月よりキャディ株式会社に移り、プロダクトマネジャーを経験した後、現職に至る。


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