筑波研究学園都市としての歴史を背景に持つ茨城県つくば市のスタートアップシティーとしての可能性を探る本連載。第3回は、電力問題の解決に貢献する可能性を秘めたアンビエント発電技術に取り組むスタートアップ・GCEインスティチュートへのインタビューを通して、スタートアップエコシステムが果たす役割についても考える。
筑波研究学園都市としての歴史を背景に持つ茨城県つくば市のスタートアップシティーとしての可能性を探る本連載。第3回は、電力問題の解決に貢献する可能性を秘めた発電技術に取り組むスタートアップ企業へのインタビューを通して、スタートアップエコシステムが果たす役割についても考えていきたい。
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電力問題は言うまでもなく重要な社会課題だ。国連が定めるSDGsの17の目標にも「7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに」と掲げられている。日本で暮らしていると「節電」や「再生可能エネルギー」という方向に意識が向くが、世界ではいまも約7億3300万人もの人たちが電気を利用できずに生活している。
そんな社会課題の解決に大きく貢献する可能性を持った新しい発電技術が、つくば市のスタートアップによって研究開発されている。そのスタートアップとは、株式会社GCEインスティチュート(以下、GCE)。使われずに捨てられている「未利用熱」や地熱などの「環境熱」などの熱を電気に変える「アンビエント発電」の開発を進めている企業だ。
熱を利用した発電技術には、「ゼーベック効果」という温度差を利用して発電する方法がよく知られており、研究開発や実用化が進んでいる。しかし、この方法で発電するためには「温度の差」を作る必要がある。GCEのアンビエント発電では熱源さえあればよく、極端に言えば、装置をお湯の中に入れることでも発電が可能だ。そのため、温泉地などで湧き出す温水を使ったり、工場や発電所で生まれて捨てられる排熱を使ったりといった、新しい発電手法の実用化が期待されている。工業施設などではカーボンニュートラルに向けたさまざまな取り組みが行われているが、アンビエント発電が実現すればその観点でも非常に大きな効果を生むだろう。
本連載でも何度か触れてきたが、スタートアップの業態分類には「ディープテック」という言葉がしばしば使われる。ディープテックとは、「研究を通じて得られた科学的発見に基づく技術で、その事業化によって社会に大きなインパクトを与える技術のこと」などと説明される。アンビエント発電の実用化/事業化に取り組むGCEは、まさにディープテックスタートアップといえるだろう。
スタートアップというと若い経営者を連想するかもしれないが、GCEの創業者で代表取締役の後藤博史氏は60代のベテラン技術者だ。大学卒業後にメーカーに就職し、働きながら大学院に通って博士号を取得した後藤氏は、GCEを創業するまでに何度かの転職と、2度のスタートアップの創業を経験している。電力問題や未利用熱の活用に着目したのは、この数年のことだという。
「もともとのバックグラウンドは精密機械工学です。ずっと微細加工技術によるモノづくりの研究開発をやってきました。民間企業や産総研などで研究開発や事業経営を経験することで技術と経営の力を磨いてきて、今取り組んでいる熱電変換技術と出会ったのが55歳のときです。自分が今までやってきた微細加工の技術や知見が、熱電変換技術の発展に生かせることに気付き、さらに社会貢献にもつながるということで、GCEを立ち上げて事業化を目指すことにしました」(後藤氏)
それまで培ってきた技術の延長線上に、たまたま熱電変換技術があった。後藤氏は、最初から社会起業を目指していたわけではないと話す一方で「50代も後半になり、最後に爪痕を残したいというか、残りの人生でなにか社会に貢献したいと考えていました。若い頃からずっとナノテクの分野に携わってきて、恩返しをしたい気持ちもあります」と語る。
未利用熱を使った発電技術が実用化すれば、膨大な工場排熱や火山などの地熱などを活用した発電によって、世界中の電力問題は大きく変わるだろう。そんな世界規模の事業を目指す企業が茨城県つくば市に本社を置いているのは、どうしてなのか。
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