マイクログリッドの構築コストで最も大きな要素になるのが蓄電池である。導入する蓄電池の容量が少なければ少ないほどコストを削減できるわけだが、先述した通り中堅中小製造業の既存工場は太陽光発電パネルを設置できる面積が限られている上に、太陽光発電は日射量の変化による発電量の不確実性もあり、これを補おうとすると蓄電池の容量を増やさざるを得なくなる。
さらに地域マイクログリッドの制約として、非常時の電量供給先となる同じ配電系統に属する指定避難所の地区市民館と工場から地区市民館までの民家に5日間電力を供給できる必要もあった。そこで、MATLABを使って日射量が年間最低の場合のマイクログリッド電力供給シミュレーションを行った上でシステム構成を検討し、ベース電源となるコージェネレーション発電機を導入することで蓄電池の容量を抑えた。「コージェネレーション発電機を入れない場合、蓄電池の容量は1MWh×3系列になる可能性もあった。実際にシステムを構築する前のシミュレーションで、コージェネレーション発電機の導入を判断できたことは大きな成果だ」(鋤柄氏)という。なお、コージェネレーション発電機は、平時に工場の洗浄室で発生する熱を再利用できる点も加味して導入されている。
MATLABによるシミュレーションは、マイクログリッドにおける電力調整の課題を解決するのにも活用されている。蓄電池は、入出力密度が限られていることもあって急激な電力の需要と供給の変動に対応するのに適しているとはいえず、蓄電量が大きく変動すると寿命などにも影響してしまうなど細やかな電力の需供調整が得意ではない。そこで、蓄電池による電力調整を補助する目的で導入したのが、高い入出力密度と応答性が特徴となるリチウムイオンキャパシターである。シミュレーションを基に、電力のインバランスを中時間変動と短時間変動、極短時間変動の3つに分解し、中時間変動と短時間変動は3系列の蓄電池をEMSで機能スワップして制御しつつ、極短時間変動はリチウムイオンキャパシターで安定化するという構成を見いだした。
システム構成を検討するためのシミュレーションだけでなく、システムを構成するさまざまな電源機器の協調動作を可能にするソフトウェア開発にもモデルベース開発が活用されている。システム構成のコンセプトを基に、太陽光発電パネルや蓄電池の電力変換を行う各電源機器のSimulinkモデルにMATLABで記述した制御プログラムを組み込んで、モデルベースのシミュレーションであるMILS(Model-in-the-Loop Simulation)を行って最適化を図った。
そこから、「Embedded Coder」を用いてモデルからC言語コードを自動生成し、電源機器を制御するPLCのC言語ユニットに組み込むことで、ソフトウェア開発期間を短縮するとともにハンドコーディングも最小限に抑えられた。武蔵精密工業 研究開発部 スマートパワーシステム開発Gr グループマネージャの小久保利記氏は「開発とシミュレーションの両方ができるモデルベース開発の基本ツールとして、MATLABとSimulinkは使い勝手がいい。パラメータを変えたらすぐに結果が出てくる点も評価が高い」と強調する。
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