中堅自動車部品サプライヤーである武蔵精密工業は、モデルベース開発によってコスト削減を可能にしたマイクログリッドを自社で構築した。国内の中堅中小製造業が悩みを抱えるカーボンニュートラルへの対応に向けて外販も検討している。
国内製造業にとって喫緊の課題の一つになっているのがカーボンニュートラルへの対応だろう。日本政府が2050年のカーボンニュートラル達成を打ち出したこともあり、大手製造業を中心にCO2排出量の削減に向けたさまざまな取り組みが進められている。
ただし国内企業の99%以上を占めるといわれる中堅、中小企業にとって、CO2排出量を削減するための施策を継続することは困難だ。工場におけるCO2排出量削減の代表的な取り組みである太陽光発電パネルの導入だけを取っても、古い工場建屋の屋上は重量制限などで十分な枚数を設置できず、敷地内に空きスペースがないことも多い。いわゆる再エネ電力やカーボンクレジットを購入しようにも、それだけの投資を継続する余力も大手企業に比べて少ないと言わざるを得ない。
売上高3000億円規模の中堅自動車部品サプライヤーである武蔵精密工業にとっても、カーボンニュートラル達成に向けた道のりは容易ではない。同社が2021年5月に発表した「ムサシカーボンニュートラル宣言」では、2038年にGHG(地球温暖化ガス)プロトコルにおけるスコープ1、スコープ2でのカーボンニュートラル、2050年にスコープ3を含めたバリューチェーン全体でのカーボンニュートラルの達成が目標となっている。
2038年の目標達成に向けては太陽光発電の導入が軸になっていく。その中で、新規事業の創出にもつながる新たな取り組みとして立ち上げたのが、災害時などに地域の電力ネットワークを支える「マイクログリッド」の構築である。
武蔵精密工業はホンダを中心に四輪車や二輪車の駆動部品を供給するサプライヤーだが、100年に1度といわれる自動車業界の激変を受けて、既存事業の強化と新規事業の創出により2038年の創業100周年に向けて成長を続けるための「ムサシ100年ビジョン」を打ち出している。例えば、既存事業である自動車部品ではEV(電気自動車)に搭載されるe-Axleの開発に注力している。また、新規事業ではインダストリー分野として工場向けのAI(人工知能)外観検査装置や自律走行搬送ロボットの展開を進めている。
マイクログリッドは、この新規事業におけるエネルギー分野の取り組みの一つになっている。同社 ES事業創出プロジェクト LPLの高森直宏氏は「当社の傘下には、UPS(無停電電源装置)や架線なしトラムなどに採用されているリチウムイオンキャパシターを手掛ける武蔵エネルギーソリューションズがある。今回のマイクログリッドは、このリチウムイオンキャパシターを活用したエネルギー分野の新規事業創出の取り組みになる」と語る。
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