自動車部品メーカーの武蔵精密工業は、イスラエルのSIX AIとの協業により、「モノづくり×AI」による新たな価値創出に取り組んでいる。後編では、自律搬送ロボットソリューションを展開する634 AIの取り組みを紹介する。
自動車部品メーカーの武蔵精密工業は、イスラエルのSIX AIとの協業により、「モノづくり×AI(人工知能)」による新たな価値創出に取り組んでいる。2023年4月25日には、武蔵精密工業本社内のMusashi AIラボで、AI技術を紹介するイベント「Far beyond Indsutry」を開催した。前編では、外観検査装置を展開するMusashi AIの取り組みを紹介したが、後編では自律搬送ロボット(AMR)ソリューションを展開する634 AIの取り組みを紹介する。
イスラエルのSIX AIとの協業により「モノづくり×AI」で新たな価値創出に取り組む武蔵精密工業だが、「外観検査装置」に続いてAIを活用できる領域として開発を進めているのが「自律搬送ロボットソリューション」である。そのため、武蔵精密工業とSIX AIは、2021年4月に合弁会社として634 AIを設立した。
634 AIのCEOであるAnat Kaphan(アナット・カファン)氏は、屋内物流において3つの課題があると指摘する。1つ目は作業の非効率性だ。「フォークリフトの調査では約半分が非効率な利用をされており、44%の企業が可視化できていないという結果が出ている。搬送作業の管理と非効率性に悩む企業がそれだけ多い」とカファン氏は述べる。
2つ目が安全上のリスクだ。「フォークリフトの11%が何らかの事故を引き起こしたことがあるという調査がある。また、事故の中の70%は、しっかりとした訓練の実践と規則の設定により防ぐことは可能だったとされている。適切な運用ができれば防げるような安全上の問題が、現在は管理ができていないために放置されている」(カファン氏)。
3つ目が作業者を取り巻く環境の変化だ。世界的に人手不足が深刻化している一方で、搬送作業工程でも働き方の改善を求める動きが出ている。「40%の企業においてフォークリフト運転者の離職率が物流管理上の懸念事項だとする調査も出ている」とカファン氏は訴える。
634 AIでは、これらの課題を解決するためにより安全でスマートな屋内搬送作業を実現する屋内物流ソリューションを提供する。人が行き交う環境で自然な形でAMRが自律搬送を行う環境を構築できるようにする。現場の自律搬送車の管理や搬送物の管理を行うCCS(中央管理システム)「MAESTRO(マエストロ)」を開発し、製品の移動を追跡したり、フォークリフトの走行での危険性をリアルタイムに警告したり、各AMRをナビゲートしたり、さまざまな搬送機器の協調作業を実現する。それぞれの荷物を運搬するAMRはオリジナルのものも用意するが、複数の他社製品を組み合わせる形でも使用可能だ。
自動搬送ソリューションの仕組みは、搬送作業を行う構内の天井にカメラを設置し、そのカメラ映像データをMAESTROによってAI映像分析をする。それによって、AMRや人の検知、場所の特定、事象の分類と理解、制御などを行う。基本的な搬送エリアの人や物体の認知は天井カメラの映像で行うが、搬送ロボット上のLiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)でも衝突がないかを確認する。また安全ボタンも設置されており、3段階での安全性を確保している。天井カメラによる映像解析のみでも認識精度は±1cm以下を確保できるという。
カファン氏は「MAESTROはスマートで効率的なインフラによりシンプルで自動化されたタスクの設定が簡単に行える特徴を持つ。3層での安全性も確保している」と特徴について語る。屋内自動搬送では、AMR側に設置されたカメラやLiDARでの位置認識を行うものなど、さまざまなタイプのソリューションが既に存在している。その中で、天井のカメラによる位置認識を中心とした理由について、カファン氏は「製造業では工程の変更が頻繁に行われるため、搬送ルートの変更も同時に行う必要がある。他の形式であれば、これらをいちいち再設定する手間が大きくなるが、天井にカメラを設置する形であれば、その映像認識により、変更を容易に行える」と説明する。
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