では、本ガイドラインの策定の背景について説明します。宇宙産業スタートアップのCISOの視点で整理すると「新たな社会インフラとしての信頼性確保」「増大するサイバー脅威に対する備え」「民間/軍事の共同利用で求められる強度の高いコンプライアンス対応」の3つが求められているとみています。順を追って説明していきましょう。
人工衛星を社会インフラとしてみた場合、「通信(放送)」「測位」「地球観測」の3つが主な機能です。「通信(放送)」は、携帯電話や衛星放送に活用されており、既に重要な社会インフラといえます。「測位」を活用したGPSは、ナビ機能に利用されるなど、もはや生活になくてはならないものです。「地球観測」は、気象予報への利用が最もよく知られた事例ですが、他にも、宇宙から撮影した画像を解析して、農地の収穫計画、収量予測、病気などの異常診断を行ったり(図2)、高速道路や大型施設などのインフラのひずみなどの異常を過去画像と比較から検出したりと、衛星データの用途が、多様なビジネス領域に広がっています。
これらの社会インフラとしての人工衛星の重要性を高めた一つの大きな要因として、衛星の「コンステレーション」があります。コンステレーションとは、多数の衛星間で協調動作を行うことで、より高度な機能やサービスを実現することです。本来の意味は「星座」で、複数の点を線で結んだイメージとともに理解するとよいでしょう。
このコンステレーション技術の進展により、衛星が提供する機能の「精度」「リアルタイム性」が大きく向上します。例えば、人工衛星は、その高度によって地球を周回する速度が異なります。低い位置で周回する観測衛星は、撮像の解像度は上がりますが、観測範囲は狭くなりますし、撮像データを送信する先の地上局に送信可能な位置に来るまでにタイムラグが発生します。ここで複数の衛星が連携して、撮像データを衛星間でやりとりし、一番地上局に近い衛星から送信できれば、精度を確保しつつ、リアルタイム性も上げることができるのです。
これまで1日かかっていたプロセスが数分に短縮できれば、その用途は全く異なってきます。多数の小型/超小型衛星のコンステレーション技術が宇宙ビジネスの可能性を大きく広げ、それと同時に社会インフラとしての人工衛星の価値は大きく向上しました。こうした価値向上に伴い、サイバー攻撃を受けたときの社会やビジネスへの影響が大きくなってきています。
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