AM実製品活用に企業はどのように取り組むべきか金属3DプリンタによるAMはなぜ日本で普及しないのか(4)(2/2 ページ)

» 2023年07月18日 08時00分 公開
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企業経営者の意識改革とAMで達成すべき長期目標の設定

 AMの戦略的投資判断における稟議決裁を最終的に行うのは企業経営者です。企業内の各組織における情報共有や意識改革と同様かつ同じ機会にAMへの理解が進められればいいですが、普通はそのようにできない場合が多いと思われます。

 企業経営者のAM投資判断には、普通の稟議決裁と違う情報共有のアプローチが必要です。これにはAM装置メーカー単体の説明や資料だけでは不十分です。このような時はぜひ、われわれ日本AM協会の展示や講演、資料をご活用ください。

 AM実製品活用における工程や目標設定においては、最低でも3年以上先のゴール設定をしてください。金属のAMについては一般的に、AM装置単体の運用修得に1年以上必要で、そこから設計変更した実製品の造形試験や品質確認を行うので、ビジネス(利益)創出には最低でも3年は必要になると考えます。短期間の目標設定は、AM活用の断念につながります。

 AMのメリット/デメリットを正しく理解し、デメリット(難点)への対応をいかに想定しておくか、またそれに負けない将来的利益を想像できるかが重要です。そのために日本AM協会では、AM実製品活用事例の公開と説明に注力しています。

戦略的AM部品活用事例1 AM装置メーカーによる戦略的AM部品活用事例(DMG森精機)[クリックで拡大]出所:日本AM協会
戦略的AM部品活用事例2 戦略的AM部品活用事例(ティーケーエンジニアリング)[クリックで拡大]出所:日本AM協会

AMの取り組む中で問題に直面した時の対応

 AMの戦略的投資判断が企業としてできたとしても、新工法で経験のないAM活用に取り組むと、想定できなかったさまざまな問題に直面します。

 これまで経験を積んだ現工法での業務であれば、問題点に直面しても対応ができるでしょう。しかしAMの場合は問題に直面するたびに、「それでもAM活用検討を継続すべきか」の考えや意見が社内で発生すると思われます。

 準備や想定をしていても、経験のない初めての事を推進するときは必ず何度か直面する事象です。この時に必要な対応が、次の2点になります。

  • ゆるぎない取り組み意識
  • 柔軟な取り組み手法の見直し

 「ゆるぎない...」と「柔軟な...」は相反するように見えますが、この2つを両立する対応が大変重要になると考えます。初めての経験で長期にわたる戦略的投資が必要なAM活用の場合、いろいろな想定外の問題に直面したり、ゴールまでの期間が延びたりするでしょう。

 そのたびに戦略的AM活用の中止や見直し議論が噴出し、AM担当者がそれらへの対応に追われると、AM活用工程や担当者への士気に大きな影響を与えます。関係者はもともと経験のないAMに大きな投資や時間を費やすことへの不安を抱きつつ対応しているのです。会社や組織の動揺が与える影響は、大変大きなものになります。会社や組織としてゆるぎない姿勢を見せて、AM活用事業を進めていただきたいです。

 しかし、デジタル製造ソリューションとしてのAM技術は、日進月歩であることは間違いありません。ゆるぎないAM活用事業推進姿勢を保持しつつも、最新AM技術への情報収集には注力し、柔軟な前進姿勢で取り組み手法の見直しを行うべきです。

 ここで重要なのが、先導役を中心としたAM関係者の情報共有と合意、そして先導役一人に責任を負わせない組織運営と考えます。これらは簡単なようで実現は難しいことです。しかし、これらのようなAM活用事業推進ができないと、AM実活用の実現はできないでしょう。

 AMというテーマではありますが、「ビジネス(利益)が見えにくい新しいデジタルソリューションアイテムでのゲームチェンジに、企業(われわれ)が生き残っていけるか?」を問われているように感じています。

 日本の企業人として平和で幸せな社会人生活を送らせてもらった年齢層のわれわれが、後に続く世代の方々にも平和で幸せな社会人生活を送ってもらうために、「何とか貢献したい」の思いで定年後に日本AM協会で奔走しながら、今回の連載記事を寄稿させていただきました。

 記載しているAMに関する内容の正誤ではなく、新しいデジタルソリューションビジネスへの向き合い方の参考にしていただければ幸いです。最後になりましたが、AMビジネスに関わる皆さまのご成功とご多幸を祈念して寄稿の結びとさせていただきます。(連載完)

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著者紹介:

一般社団法人日本AM協会 専務理事

澤越 俊幸(さわこし としゆき)

近畿大学理工学部経営工学科卒業後、1985年に立花商会(現:立花エレテック)へ入社し、制御、映像、特殊端末などの各種システム販売を担当する。2013年にAM(3Dプリンタ)販売担当になると、2014年に任意団体「3Dものづくり普及促進会」発足し、事務局を担当。2022年に3Dものづくり普及促進会を一般社団法人日本AM協会に移行し、現在に至る。



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