AM実製品活用に企業はどのように取り組むべきか金属3DプリンタによるAMはなぜ日本で普及しないのか(4)(1/2 ページ)

本連載では、日本国内で何が金属3DプリンタによるAM実製品活用の妨げとなっており、どうすれば普及を進められるかを考察する。今回は、AMの実製品活用に投資するための企業の考え方、進め方について考える。

» 2023年07月18日 08時00分 公開

 ここまで連載を進める中でも記述した通り、金属3Dプリンタを用いたAM(Additive Manufacturing、積層造形)の実製品活用には膨大なコストと時間を必要とします。そのビジネス(利益)が見えない国内状況において、慎重かつ安定的な経営を求められる企業が、AMへの大きな投資を戦略的に判断するのは大変難しいと思われます。

⇒これまでの連載「金属3DプリンタによるAMはなぜ日本で普及しないのか」はこちら

未経験のAMビジネスに投資判断するには

 戦略的とは、直接的にビジネスにつながらないアクションです。直接的にビジネスにつながるアクションは戦術となります。戦略的投資には、経験情報に基づいた高度な判断が必要です。

 AM活用については、海外での活用状況などの情報の入手は十分にされていると考えます。しかし、ほとんどの企業はAMビジネスを経験したことがありません。工法において未経験であることが、どれだけAM活用の妨げになるかを私はたくさん見てきました。

 完璧重視の国内企業においては仕方のないことですが、この状況を理解した上でAM普及活動を行うことも一般社団法人日本AM協会の役割だと考えます。人の基本的思考(性格、文化)を変えることは容易ではないですが、団体や業界としてAMへの意識改革を狙い、新工法AMへの不安を軽減し、AMへの戦略的判断を後押しする必要があります。

 では過去に経験したことのないAMを実製品活用するために、企業は何を考え、意識しなければならないのでしょうか。

AMの将来性について意識共有が必要

 戦略的投資を行うには、将来もたらされるビジネス(利益)の想像が必要です。「AMを活用したら企業の将来において何が変わるのか」、この意識共有が大切です。

 将来的なビジネス(利益)想像ができないようでは、AMに戦略的投資をすることはできませんし、その必要もありません。「AM活用での将来ビジネス」を想像するための各種情報は、すでにWebサイトや展示会から十分に入手できていると考えます。

 「材料が高い」「造形コストが高い」「使用したい材料がない」などAM活用に否定的な意見をよく聞きますが、それらは全て現工法との比較による否定意見です。現工法との単純比較をするのであれば、AMの活用は必要ありません(できません)。つまり、AM活用に関してはマインドチェンジ(意識改革)が求められるのです。現工法のマインドのまま思考しても、AMでの将来ビジネスは見えてこないのです。

 しかもこのマインドチェンジは、個人や1部署だけで起こっても企業のAMへの戦略的投資判断にはつながりません。これまでも言及してきましたが、AM実製品活用には設計変更、材料変更、AM造形設定、後加工連携、品質保証といった企業の全部署の関与が必要になります。

 よって、企業内で関与する多くの部署や担当者において、AMへの情報共有や意識改革が必要です。関係組織全体でAM活用への意識共有をしないと、企業としてAMへの高度な投資判断には至らないと考えます。

企業内各組織でのAM必要性の理解とリスク(難点)の共有

 AMの戦略的投資判断には、企業内の各組織(管理、仕入、設計、製造、品質管理など)において、情報共有や意識変革(マインドチェンジ)が必要なことは前述の通りです。

 しかし、これだけでは戦略的投資判断はできても、AM活用後に発生するさまざまなな未体験の問題に対処できない可能性があり、最悪の場合はAM活用の断念につながります。私はそのような企業を何社か見ています。

 AMの将来性(メリット)の情報共有だけではなく、リスク(難点)も十分に情報共有する必要があります。新工法であるAMは、インターネットや展示会において成功事例やメリットの情報共有はできていても、難点についての展示や説明はほとんどされていないからです。

 「デメリット(難点)は普通、あえて公開しない」と思われるでしょう。現工法の場合は情報を受け取る側の企業に基礎的な知見があるので、メリットだけの情報提供でも問題ないですが、AMに関しては何でもできる素晴らしい装置と思っている方々が多いのです。

 そこまでではなくても、AMに対して単純な情報収集しかしていない企業では、AM活用の難点についての情報共有はできていないといえるでしょう。費用と時間を必要とするAM実製品活用には、そのメリット(利益)とリスク(難点)をバランスよく情報共有して、途中で挫折しないようにすることが肝要です。「難点も想定済み」と関係者で意思統一できるような情報共有ができればベストです。

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