東芝は、原子力事業で取り組みを進めている国内原子力発電所の再稼働に向けた支援の体制やデジタル技術を活用したプラント運営支援サービス、次世代革新軽水炉「iBR」の開発状況について説明した。
東芝は2023年7月11日、オンラインで会見を開き、原子力事業で取り組みを進めている国内原子力発電所の再稼働に向けた支援の体制やデジタル技術を活用したプラント運営支援サービス、次世代革新軽水炉「iBR」の開発状況について説明した。同社が設計と建設を担当した東北電力女川原子力発電所2号機は、2023年1月の再稼働に向けて順調に作業が進んでおり、iBRについても2030年代に建設を可能とすべく開発に注力しているという。
東芝グループにおいて原子力事業を所管しているのは、東芝エネルギーシステムズのパワーシステム事業部である。会見には、同社 取締役 チーフニュークリアオフィサー 原子力技師長の薄井秀和氏、軽水炉技師長の松永圭司氏、パワーシステム事業部 シニアフェローの坂下嘉章氏が登壇して説明を行った。
現在、日本政府の原子力政策は転換期を迎えている。2011年の東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故発生以降、原子力発電所の再稼働に厳しい基準を適用するとともに新設も行わないという方針だった。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う天然ガスの供給不安定化や電力価格高騰の影響を受けて、より積極的に既存の原子力発電所を活用するとともに新設も進めていく方針を示している。
実際に、政府の第6次エネルギー基本計画では2030年時点と2050年時点で総電力需要の20%以上を原子力が担うことが示されているが、そのために必要な原子炉の数は2030年に27基、2050年に40基と算定される。たとえ原子炉の稼働期間を最長となる60年間に延長しても、新設しない限り2050年には23基、2060年には8基にまで減少することになる。薄井氏は「2050年時点で設備容量が足りない以上、原発の新増設が必要になる。こういった社会的要請への対応を含めて、再稼働の推進、将来のカーボンニュートラルの達成に向けた次世代革新炉の開発に注力していく」と語る。
東芝の原子力事業は沸騰水型の軽水炉(BWR)が中核だ。国内にある56基の原子炉の設備容量比で60%に当たる32基をBWRが占めており、その半分以上の17基を東芝単独で建設している。また、原子炉の建設だけでなく、燃料製造や再処理に加え、再稼働や廃炉など幅広い事業領域をカバーすることも特徴となっている。
原子力事業の足元のビジネスとして重要なのが原子炉再稼働の支援である。東芝は、福島第一原子力発電所事故以降の新規制基準に基づき、BWRの原子炉の再稼働に向けた安全対策工事を進めている。この安全対策工事はさまざまだが、会見では代表的なものとして「サプレッションチェンバ(S/C)の耐震強化」と「フィルタベント設備の設置」について解説した。
サプレッションチェンバは常時約2900トンの水を貯蔵し、原子炉格納容器の圧力が上昇した場合にはこの水で冷やして圧力を下げる役割がある。また、非常時には冷却水を供給する機能もあり、耐震強化における代表的な大規模工事となっている。一方、フィルタベント設備は、原子炉格納容器の過度な圧力上昇に伴う破損により、大量の放射性物質が外に漏れ出すことを防ぐため、格納容器内の蒸気に含まれる放射性物質をフィルターで除去して大幅に低減してから放出することで圧力を下げる機能がある。シビアアクシデント対策としては代表的な設備だ。松永氏は「原子力発電所の再稼働に向けて、当社の付加価値を提供しながら、安全性を大前提とし、安定供給、経済性、環境の配慮を同時に達成する『S+3E』の実現に向けて貢献していく」と述べる。
サプレッションチェンバの耐震強化は、女川原子力発電所2号機で実施しており、工事完成は間近となっている。新規制基準に対応するためには、寸法が直径約50×高さ約10mと巨大なドーナツ型の鋼鉄製構造物であるサプレッションチェンバに対して、耐震補強部材を溶接で取り付ける必要がある。これまでにない大規模な工事に対応するため、サプレッションチェンバのフルスケールモックアップによる実証によって工事手順や工程を整理し、溶接員の習熟訓練も実施してから現場での工事に臨み「オンスケジュール/オンバジェットで進められている」(松永氏)という。
同じく女川原子力発電所2号機で実施しているフィルタベント設備の設置では、原子炉建屋内の限られたスペースに、直径2.6×高さ6mのフィルター装置を3基設置する必要があり、極めて難易度が高い。そこで、装置の搬入、立て起こし、据え付けの手順の検討に3D CADを用いたシミュレーションを行い、装置の動きと周辺機器のギャップをステップごとにチェックし、現場工事担当者と調整を繰り返し、安全かつ効率的に作業を完遂することができたとする。
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