「カーボンニュートラルの取組みと循環型社会へのチャレンジ」と題した「人とくるまのテクノロジー展 2023 横浜」での講演の中で、トヨタ自動車が温暖化対策、循環型社会の構築に向けた活動を紹介するとともに、カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーの関係性を語った。
カーボンニュートラルの実現は、自動車メーカーにとって大きな経営課題の1つとなっている。トヨタ自動車は2015年10月、気候変動や資源循環、自然共生など6つのチャレンジを設定した「トヨタ環境チャレンジ2050」を掲げ、取り組みを推進してきた。
トヨタ自動車 カーボンニュートラル先行開発センター 環境エンジニアリング部 主査の荻村友彦氏は「カーボンニュートラルの取組みと循環型社会へのチャレンジ」と題した「人とくるまのテクノロジー展 2023 横浜」(2023年5月24〜26日、パシフィコ横浜)での講演の中で、自動車の温暖化対策、循環型社会の構築に向けた活動を紹介するとともに、カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーの関係性を語った。
地球規模で進む気候変動に企業も早急な対応が求められている。2015年のパリ協定の合意と同時期に提唱され始めたSDGsなどを背景に、各国政府は気候変動に関する政策を提案して規制を強化。投資家をはじめとするステークホルダーの環境意識も急速に高まっている。
こうした動きに対し、日本自動車工業会(自工会)はカーボンニュートラルを最優先課題の1つと捉え、「敵は炭素。内燃機関ではない」「エネルギーを『つくる』『運ぶ』『使う』全てでCO2低減」「山の登り方は1つではない」「規制で技術の選択肢を狭めない」をキーワードにして、日本独自の複合技術の強みを生かしてカーボンニュートラルに取り組むことを宣言している。
日本独自の複合技術の強みをまさに実践しているのがトヨタだといえる。ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)、水素エンジンなど多様なパワートレインを全方位で取り組む「マルチパスウェイ」を打ち出す。
パワートレインは製品使用段階のCO2排出削減に当たるが、トヨタは生産活動にかかわるモノづくり段階や、モノづくりの前工程に当たるサプライチェーンの段階でも気候変動対策を進めている。
製品使用段階においては、HEVの普及が貢献して着実にCO2排出量低減の実績を積み上げている。トヨタの新車が排出する平均CO2量は、2000年から2019年にかけて30%削減を実現しており、2030年には33%以上、2035年に50%以上の削減にチャレンジする。そして、「2050年のカーボンニュートラルの達成に向かって、グローバルで着実に脱炭素を進めている」(荻村氏)という状況だ。
トヨタは走行中のCO2を削減するための方策として、「電動化」「燃費/電費改善」「コネクテッド」「燃料/エネルギー」などを掲げる。荻村氏は「トヨタはこれら多様な技術を組み合わせ、マルチパスの考えで走行時に排出されるCO2の低減を図っている」と強調した。
電動化では、HEV、PHEV、EV、FCVへのシフトを推進する。トヨタは1997年に初代プリウスでHEVを発売して以降、2022年までに累計2250万台の電動車を販売してきた。今後はEVの競争力強化にも急ピッチで取り組み、新たな販売目標として2026年に150万台を設定した。ただ、トヨタはEV一辺倒ではなくマルチパスウェイの考えの下、各地域のエネルギー事情と市場ニーズに沿った多様な選択肢を用意して電動化を推進する。
燃費/電費改善については、主に「パワートレイン技術」「車両技術」「オフサイクル技術」の3領域に取り組む。パワートレイン技術では、エンジンやモーター、バッテリー、パワーコントロールユニットなど、それぞれの要素で損失低減や効率最大化を継続的に強化する。
車両技術は空力改善や軽量化、アイドルストップなどが該当する。例えば空力改善では、走行時の空気抵抗を減らす車体形状や床下の整流化の他、エンジン水温や車室内温度に応じて空気を取り入れるべきときに開き、不要なときには閉じる自動機構「グリルシャッター」などを通じて空気抵抗の低減を進めている。
オフサイクル技術とは、燃費試験の条件では現れないが、実走行で効果の出る技術の総称だ。空調制御が代表例として挙げられる。「Sフロー」はその1つで、トヨタは2011年に世界に先駆けて採用した。運転席、助手席、前後席など独立して制御できるオートエアコンの進化版制御システムで、センサーが乗員の位置を感知し、着座している席にだけ送風することでロスを低減する。
また、曇りやすいフロントガラスに当たる部分は外気を導入しながら、足元は暖まった空気を内気循環させて内気循環効率を上げる「内外気2層HVAC」や、ステアリングヒーター、シートヒーターなどを活用し、エンジン熱に頼らない省エネ暖房を実現する「直接暖房」の導入も進め、燃費や電費の改善を続けている。
トヨタはCO2排出削減でコネクテッド技術の活用も進めている。車両通信技術よる知能化だ。「先読みSOC(ステートオブチャージ)制御」はその一環で、車両通信技術を使って自車位置を特定し、地図上で自車が進む先にある勾配や渋滞などの道路情報を先読みする。減速エネルギーを電気エネルギーに変換する回生制御を最適化し、燃費向上につなげる。
燃料/エネルギーについては、「低炭素燃料は既存の車両や既存の燃料インフラを活用でき、即効性のある低炭素の手段になり得る」(荻村氏)と期待を寄せている。米国での低炭素燃料の認知拡大を目的にエクソンモービルと連携し、低炭素燃料の実用化に向けた研究を開始した。日本では、2022年7月に設立された「次世代グリーンCO2燃料技術研究組合」に参画。石油会社や商社、自動車メーカーとともに、バイオエタノール燃料製造の研究を始めた。
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