“解析専任者に連絡する前に、設計者がやるべきこと”を主眼に、CAEと計測技術を用いた振動・騒音対策の考え方やその手順を解説する連載。連載第7回では「振動対策のアプローチ」をテーマに、具体的な事例を交えながら振動対策案を考え出す手法を紹介する。
いよいよ振動対策です。まず、対策事例を紹介して、振動対策案を考え出す手法を述べたいと思います。
図1に、加工物(以降、「ワーク」と呼びます)を測定し、所望の位置に移動して加工する生産機械を示します。実物の写真は掲載できないのでモデリングしました。問題は、ワークを移動した直後に発生する振動がなかなか減衰しないことでした。装置に顕微鏡が付いていると、モニターに映し出される映像がブレるので、専門家でなくても振動していることが分かります。
振動対策の初動は測定となります。ブレる映像を見るだけで対策をすると対策効果が数値化できず、案外堂々巡りになることが多いため、手間を掛けてでも測定器を用意しましょう。今回は、図2のようにレーザー測長計でXYテーブルの変位を測定しました。レーザー測長計は高価なのでちょっとぜいたくな測定でした。加速度ピックアップや渦電流式変位計を使うと安価に測定できます。図2右上のグラフはXYテーブルの変位です。一見、振動問題はなさそうですが、拡大すると図2右下の図のようにPeak-peak値39.9[μm]の振動変位が発生していました。
変位の一部を切り取って周波数分析したものを図3に示します。34.2[Hz]成分と68.4[Hz]成分が観測されました。
図4に、振動波形を再掲します。34.2[Hz]成分はよく表れていますが、68.4[Hz]成分は初期段階で表れてすぐに減衰していることが分かります。よって、対策のターゲットは34.2[Hz]成分の振動となります。
振動を起こした原因は、モーターの回転によってボールねじに発生した力です。その力を考えてみましょう。今回は、ステッピングモーターなので力の測定はできず、制御屋さんにステッピングモーターにどのようなパルス信号を出したか聞くことになりました。具体的には、パルスを発生するドライバソフトの設定値を調べ、そこからモーターの回転数、つまりXYテーブルの速度をが分かります。速度を時間軸で積分すると変位となり、微分すると加速度となります。可動物の質量と加速度との積が発生した力となります。これらを図5に示します。図には力を周波数分析したものも示します。これらの計算は「Excel」で行いました。力はいろいろな周波数成分を持っていますが、今回の振動を起したのは力の34.2[Hz]成分で、その振幅は94.3[N]でした。
力の大きさの取得ですが、今回は計算して求めました。ステッピングモーターではなく、サーボモーターを使った場合には、ノートPCとドライバをUSBでつなぐと、モーターのトルク信号をPCに取り込むことができます。あるいは、ドライバソフトの設定を変えるとトルクに比例した電圧信号が出る端子があるので、その端子を「FFTアナライザ」につなぐことになります。
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