AGCは、インドネシアの化学品製造/販売子会社であるアサヒマス・ケミカルのVCM(塩化ビニルモノマー)製造プラントで運用を開始したプロセスデジタルツインについて説明した。
AGCは2023年4月17日、オンラインで会見を開き、同月からインドネシアの化学品製造/販売子会社であるアサヒマス・ケミカル(ASAHIMAS CHEMICAL)のVCM(塩化ビニルモノマー)製造プラントで運用を介したプロセスデジタルツインについて説明した。現在、3系統あるアサヒマス・ケミカルのVCMプラントのうち1系統に適用しており、2023年末には需要に合わせた最適運転点の提示により燃料ガスやスチームなどのユーティリティーコストで年間数億円レベルの効率化を実現し、2025年末には制御系と連動した自動運転によりプラント全体の最適化を図る方針である。
プロセスデジタルツインとは、実プラントの運転データをPIMS(プラント情報管理システム)経由でプロセスシミュレーターにリアルタイムに取り込み、即時に高速計算することで、仮想空間上にプラントの現在の状態を再現する技術のことである。効率的な運転点の維持や正常運転範囲の逸脱を早期発見できる「運転状態の可視化」、連続稼働期間の最適化やメンテナンス計画に活用できる「装置性能の可視化」、濃度計の設置やサンプル採取分析をするこなく化学工学に基づいて成分比率などを導き出す「ソフトセンシング」、計器/設備の異常を早期発見できる「異常検知」といった機能を実現できることが知られている。
今回AGCが開発したプロセスデジタルツインは、より高い精度を実現するために3つの工夫を盛り込んでいる。1つ目は、プラントの現状を常に精度よく再現するためにパラメータを自動でチューニングする「自動チューニング機能」の構築である。プロセスデジタルツインにおいて、VCMプラントなどで用いられている蒸留塔の現状実現モデルでは、その効率を表すパラメータを固定値として、得られる化合物の純度などを計算値として出力するようになっている。ただし、連続で運転を続けていると蒸留塔内の汚れなどの影響で効率が低下してしまう。そこで、定期的に実行するチューニングモデルにおいて純度のデータを固定値として効率を逆計算によって導出し、ここで新たに得られた効率を現状実現モデルに適用することで自動チューニングが可能になるという。
2つ目は「厳密な反応モデル」の組み込みにより、運転管理を行う上でPPM(0.0001%)オーダーが求められる副生成物の生成をシミュレーションの中でモニタリングできるようになったことだ。46の分子、25のラジカル、100種類強の化学反応を考慮しているという。
そして3つ目は「動的挙動の再現」である。従来のプロセスデジタルツインではプラントが安定稼働している定常状態しか再現できなかった。AGCが新たに開発したプロセスデジタルツインは、動的シミュレーションの活用により時々刻々と変化するプラントの動的な挙動の再現に成功した。「定常状態だけの再現と比べて、動的挙動を再現するには3倍のパラメータが必要になるなど実現のハードルは高い。今回の成果は世界的に見てもかなり先進的な事例になるのではないか。プラントの状態を常にシミュレーション上で把握できているため、ソフトセンシングの適用範囲も大幅に広げられる」(AGCの開発担当者)という。
なお、今回開発した技術は大規模な連続プラント向けとなっており、AGCグループ内ではVCMプラントが最適だったため、アサヒマス・ケミカルでの適用から始まっている。今後は、現在導入している1系統での成果を見定めながら、アサヒマス・ケミカルの残り2系統への適用拡大や、他プラントへの横展開なども検討していく方針である。
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