デジタルツインを実現するCAEの真価

FFTアナライザを使いこなそう!CAEと計測技術を使った振動・騒音対策(6)(3/5 ページ)

» 2023年04月10日 07時00分 公開

パワースペクトル密度:PSD(Power Spectral Density)

 この項の目的は、FFTアナライザの中にはデフォルト設定で「パワースペクトル密度」を表示するものがあるので、間違ってパワースペクトル密度の値を信号の振幅と解釈しないための注意喚起です。そのために、パワースペクトル密度について紹介しておきます。

 なぜ、FFTアナライザが「パワースペクトル密度を表示する」という余計なことをするのかというと、パワースペクトル密度にも用途があるからです。FFTアナライザの縦軸の単位が何かをしっかりとマニュアルを読んで使ってください。

 パワースペクトル密度の定義を以下に記します。

式2 式2
式3 式3
式4 式4
式5 式5

 単位の[EU]は“Engineering Unit”のことで、信号の単位が電圧だったら[V]、加速度だったら[m/s2]になります。パワースペクトル密度は「単位周波数当たりのパワー」と説明されていますが、単位時間当たり(1秒間当たり)や単位面積当たり(1[m2]当たり)といわれるとピンとくるのですが、“単位周波数当たりのエネルギー”といわれてもなかなかピンときません。筆者はいまだにピンと来ていませんので、定義式を覚えることにして、「パワースペクトル密度の説明は定義式を日本語に翻訳しただけ」と解釈しています。

 図13に振幅1[-]のsin波について、サンプル数を変えて周波数分析をしてパワースペクトル密度を求めた結果を示します。同じ信号なのに、パワースペクトル密度の値は2倍異なりました。式5の分母が2倍違うのでこうなります。FFTアナライザのサンプル数を変えただけで縦軸の値が変わってしまうとは……たまったものではありません。そのため、FFTアナライザのデフォルト設定がどうなっているかをよく確認する必要があるのです。

振幅1のsin波のパワースペクトル密度 図13 振幅1のsin波のパワースペクトル密度[クリックで拡大]

 では、飛び飛びの周波数の周波数成分を持つような信号ではなく、連続した周波数成分を持つような信号ではどうなるでしょうか。メカ振動の大多数は飛び飛びの周波数成分を持つものに分類されます。「モード重ね合わせ法」という手法で記述できる振動ならば、飛び飛びの周波数成分であることが確定的です。

 これとは別に連続した周波数成分を持つ測定データもあります。「連続スペクトル」と呼ばれています。風が吹いているときの「ゴー」という音は連続した周波数成分を持っていると考えられます。このような音の信号はランダムに変化するので、疑似的なランダム信号を作って、周波数分析したものを図14に示します。図14の周波数分析の縦軸は振幅です。振幅の平均値が√2倍異なりました。同じ信号なのにサンプル数を変えただけで振幅が変化しました。これも都合が悪いですね。

ランダム波(連続スペクトル波)の周波数分析 図14 ランダム波(連続スペクトル波)の周波数分析[クリックで拡大]

 続いて、ランダム波のパワースペクトル密度を見てみましょう。図15に示します。パワースペクトル密度の平均値は同じ値となります。ランダム波(連続スペクトル波)の場合はこちらを使う方が都合が良いようです。

ランダム波のパワースペクトル密度 図15 ランダム波のパワースペクトル密度[クリックで拡大]

 以上のことから、連続スペクトル波の場合はパワースペクトル密度を使う出番があります。例えば、乱流場における風切り音などでしようか。飛び飛びの周波数成分か連続スペクトルか分からなくても、サンプリング周波数とサンプリング数を一切変えずに比較評価すれば、このような心配をする必要はなく振幅で評価できます。以下のように使い分けてはどうでしょうか。

  • ほとんどの場合のメカ振動は、明瞭な周波数成分を持つので振幅で評価する
  • 密閉空間内の騒音など飛び飛びの周波数成分をたくさん含んでいる信号は、一見ランダムに変化する振動のように見えますが、周波数成分が連続しているわけではないので振幅で評価する
  • 風が強い日に聞こえる「ゴー」という音など、連続した周波数成分を持つ信号の場合は、パワースペクトル密度で評価する

 なお、輸送時に品物が壊れるかどうかの試験(参考文献[3])などでは、パワースペクトル密度で加振振動加速度が規定されています。

参考文献:

  • [3]日本規格協会|包装貨物−振動試験方法|JIS Z 0232

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