量子コンピュータの実用化を早める新アーキテクチャ、位相回転ゲート操作を高効率に量子コンピュータ(1/2 ページ)

大阪大学と富士通は、量子コンピュータの実用化を早める新たな量子計算アーキテクチャを確立した。

» 2023年03月24日 10時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 大阪大学と富士通は2023年3月24日、オンラインで記者会見を開き、量子コンピュータの実用化を早める新たな量子計算アーキテクチャを確立したと発表した。

約2回の試行で任意の位相回転を実現

 今回の量子計算アーキテクチャは、誤り耐性量子計算(FTQC)アーキテクチャの代替となるもので、論理CNOTゲート、論理Sゲート、論理Hゲート、論理Tゲートで構成される基本量子ゲートセットのうち、論理Tゲートに替えて独自開発した位相回転ゲートを世界で初めて導入しているのが最大の特徴だ。

 これにより、FTQCアーキテクチャを利用するケースと比較して、量子コンピュータが性能を発揮するために必要な量子エラー訂正で使用する物理量子ビット数を約10分の1に抑えられ、量子ゲートの操作回数を約20分の1に抑制できる。

量子エラーと量子エラー訂正について[クリックで拡大] 出所:大阪大学と富士通
主流の誤り耐性量子計算(FTQC)アーキテクチャと新たな量子計算アーキテクチャのイメージ[クリックで拡大] 出所:大阪大学と富士通
富士通 研究本部 量子研究所 所長の佐藤信太郎氏

 富士通 研究本部 量子研究所 所長の佐藤信太郎氏は、「新たな位相回転ゲートは、量子計算に含まれる状態ベクトルの向き(位相)を回転させる操作を行うために、物理量子ビットを使う。物理量子ビットで任意の位相角を生成し、これを論理量子ビットに冗長化する。その後、量子テレポーテーションという操作で実際に回転させたい量子ビットに冗長化した位相角の転写を行う。この検査プロセスは2分の1の確率で成功することが分かっており、失敗したらやり直せば良い。この操作は平均して2回で所望の位相回転が行えることが判明している」と話す。

 続けて、「これにより、位相角のエラー確率を物理エラー確率の約8分の1に抑えられ、2回程度のトライアルで任意の位相回転を実現する。任意の位相回転を実施するために50回の試行が必要だったFTQCのアーキテクチャと比べ効率化を図れる。つまり、これまで不可能と考えられていた位相回転ゲート操作の高精度化と高効率化に成功した」と述べた。

新たな位相回転ゲートのイメージ[クリックで拡大] 出所:大阪大学と富士通

 既に、大阪大学と富士通は、1万物理量子ビットの量子コンピュータに新たな量子計算アーキテクチャを適用した際の論理量子ビット数について算出している。その結果、64論理量子ビットを達成し、現行のスーパーコンピュータの計算性能を超える実用的な量子コンピュータの実現を早められることが分かったという。

新たな量子計算アーキテクチャの効果[クリックで拡大] 出所:大阪大学と富士通

 佐藤氏は、「FTQCアーキテクチャを1万物理量子ビットの量子コンピュータに搭載すると、約50論理量子ビットに到達するが、計算速度(単位時間当たりに操作できる量子ゲート操作回数)がスーパーコンピュータの最高性能より低くなってしまう。一方、新たな量子計算アーキテクチャを適用すると、64論理量子ビットを達成しつつ、現行のスーパーコンピュータの最高性能を超える計算速度を実現できる」と優位性を示した。

 今後は、理論段階である新たな量子計算アーキテクチャを発展させて、量子コンピュータに実装し、新規材料開発や金融でのポートフォリオ最適化などをターゲットに早期適用を目指す。

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