e-Axleは自動車部品メーカー選別の時代が始まった和田憲一郎の電動化新時代!(47)(2/3 ページ)

» 2023年02月22日 06時00分 公開

e-Axleに求められる要件とは

 このような中、BYDやNIOなど、中国国内のみならず海外にEVの輸出を目指す企業も出てきている。そのようになると、欧米や日本などでも通用するe-Axleを開発、製造する必要性が出てくる。グローバルで展開するe-Axleは以下のような要件が求められるのではないだろうか。

図表3:e-Axle開発に求められる要素[クリックで拡大] 出所:日本電動化研究所

システムインテグレーターとしての総合力

 e-Axleは単にモーター、インバーター、トランスミッションの3つを組み合わせればよいわけではない。極めて複雑な部品形態であり、システムインテグレーターとして、大掛かりなプロジェクト体制を組む必要がある。

 これに匹敵するのは、筆者の経験ではインパネモジュール組み立てではないだろうか。1000点を超える部品を開発し、1つにまとめていく仕事は、それ単体で大型プロジェクトと呼ぶものだった。e-Axleでも、プロジェクトリーダーを中心にチーム編成を行って対応すべきだろう。また、品質、コスト、日程、スペック対応など従来と同様のプロジェクトマネジメントや、最近ではCO2排出などのライフサイクルアセスメント(LCA)についても配慮しながら開発、製造することが求められる。自動車部品メーカーへの開発負荷は相当大きいことを覚悟しなければならない。

3つの要素部品に関する技術開発

 e-Axleを構成するモーター、インバーター、トランスミッションは高度な技術の集大成でもある。モーターは価格高騰するネオジム磁石を使用しない非ネオジム化や、高効率や低損失、低騒音の追求が必要だ。また、インバーターはパワーデバイスをSiからSiCへとシフトさせていき、変換効率の向上を目指さなければならない。さらに、トランスミッションは高回転域でのノイズ対策など、静粛性の高いEVならではの課題もある。

 いずれもこれまで「餅は餅屋」でノウハウを高めてきた領域であり、多くの蓄積新技術開発力がモノを言う世界である。また高性能化とコスト高の利害得失があり、難しい選択が迫られる。

自動車メーカーの開発業務の一翼を担う

 最も難しいと考えるのが次の点である。e-Axleはある意味エンジンに相当するということは、自動車メーカーからの期待として、衝突安全性への事前検討があると思われる。自動車の場合、衝突安全性は北米、欧州、中国など地域毎に試験要件が異なり、これまで自動車メーカーでも対応に苦心してきた。

 このため、たとえ自動車部品メーカーが開発すると言っても、単に3つの部品を1つにするだけでなく、CAE解析やその後に続く実車衝突試験などを通じて、自動車メーカーが検討する衝突安全性の一翼を担うことが期待される。従来、中国の自動車メーカーがなかなか海外に輸出できなかったのは、このような欧米の衝突安全性のハードルの高さにあったと考える。なお、最近ではBYDなど力をつけた自動車メーカーが輸出を開始している。いずれにしても、グローバルで仕様に対応するためには自動車メーカーと一体化した開発が必要であり、e-Axleの最も難しい点ではないだろうか。

エネルギーマネジメントやサーマルマネジメント

 モーターやインバーターなどは走行時に熱を発することから、油冷もしくは水冷方式を採用して発熱を抑える方式を採用する車種が多い。また、インバーター内部ではIGBTなどの電子部品の発熱を早く外部に逃がすために、TIM(Thermal Interface Material)と呼ばれる放熱シートを採用する例が多かった。これらはサーマルマネジメントとしての対応である。

 一方、テスラは2020年発売の「モデルY」からオクトバルブ付サーマルマネジメントシステムを採用した。最大の特徴は、オクト(ラテン語で8を表す)バルブと呼ばれるユニークな部品にある。この部品は、内部に2つの回転弁を内蔵し、コンピュータにより冷却水の流量を8方向に差配できるシステムを有している。筆者が見る限り、このシステムは利活用していなかったe-Axleやバッテリーからの排熱を利用可能とするとともに、極寒時はバッテリーのみを暖房することができるなど、多彩な機能を有している。

 ということは、e-Axleは車両の冷暖房システムと連携しているのである。これまでe-Axleは単独での機能部品だったが、テスラは冷暖房システムと連携する考えを取り入れた。さらに「モデルS」から採用済みである無線ネットワークによるアップデート(OTA:Over-The-Air)も導入され、より多彩な空調機能を有している。このように、エネルギーマネジメントとサーマルマネジメントを統合したシステムが登場しており、後から追いかける自動車部品メーカーはハードルが高くなっている。

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