エンジニアや科学者が初めてAIモデルを探求するときは、その精度に注目することが多く、他の要素は軽視されがちです。しかし、AIモデルの実装を志向するAI実務者は、「良いモデルとは、展開可能であり、ハードウェアに適合し、その意思決定プロセスが容易に説明/理解できるモデルである」と学びつつあります。
最近の傾向として、従来の機械学習モデルを使用して、説明可能な出力を持つ低コスト、低電力のデバイスの要件を満たすことが挙げられます。パラメトリックモデルもまた、「古くて新しい」例であり、特定の数式やパラメータに適合し、結果が保証されたモデルを求める企業が増えてきていることが分かります。
伝統的な機械学習手法は最先端ではありませんが、理解しやすく再現性のある方法で仕事をこなすことができます。これらのモデルは本質的にコンパクトで、少ないメモリフットプリントがハードウェア要件に求められる状況に適しています。また、出力の解釈が容易になることで、「モデルがアプリケーションの期待に応えられる」という確信を関係者が持つことができます。
より新しく、よりメモリを消費するモデルが必要な場合、量子化や枝刈りなどのモデル圧縮手法を用いると、精度への影響を最小限に抑えながらモデルサイズを縮小することができます。また、より複雑なモデルには、モデルの決定を説明し、出力の信頼性を高める説明可能性手法も利用されています。
解釈可能性、量子化、枝刈りにより、AI(深層学習や従来の機械学習を含む)をモデル開発の主流へと押し上げるときに、より多くの選択肢を持つことができます。
画期的な工学的イノベーションにAIが含まれていないことはまずありません。AIは、時系列データやセンサーデータを扱う分野など、既存の分野にも影響を与え続けるでしょう。AIがあらゆる産業や用途で主流となるにつれ、AIを含まない複雑な工学系システムは異端な存在となります。
電動化の流れは、バッテリー管理、バーチャルセンシング、低次元化モデリングなど、AIがより多くのアプリケーションへの扉を開く一例です。しかし、「以前から確立されてはいたが、AIは最近取り入れたばかり」という分野で働くエンジニアは、その技術的背景を理解する必要があります。そのため、エンジニアが業務に支障を来すことなくAIを取り入れる方法を学べるような、具体的な参考事例が求められています。例えば、バッテリー管理システムに取り組むエンジニアは、自分のデータや専門知識が盛り込まれた特定の状況に対応できるような、実績のある事例から始めたいと思うでしょう。
もはやAIがビジネスに影響を与えるかどうかではなく、いつそうなるのか、そして個々の組織にとってどうなるのかが問題なのです。AIの継続的な導入は、分野横断的なコラボレーションから独自の部品設計まで、組織全体に影響を及ぼします。エンジニアは短期および長期の目標に沿ったユースケースを特定することが重要です。
阿部 悟(あべ さとる) MathWorks Japan インダストリーマーケティング部 部長
1989年から、本田技術研究所 基礎研究所で超低エミッションエンジン、希薄燃焼エンジンなどの制御システム基礎研究、Formula-1、Indy Carレースの電装システム開発部門で開発をリーディング。2003年からはContinental、AVLなどサプライヤーサイドでエンジン、ボディー、シャシーなどの電装製品の開発に従事。2012年から現職。これまでの経験を生かして業界マーケティング活動を通してモデルベース開発の推進に尽力している。
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