ISTの次世代ロケットは「DECA」、1段目ロケット再使用で打上コストを10分の1に宇宙開発(3/4 ページ)

» 2023年01月25日 07時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

ZEROの開発は順調、打ち上げは2024年度に

 これらの状況下でISTが鋭意開発を進めているロケットが、地球低軌道に超小型衛星を打ち上げるためのZEROである。ZEROは2段式の液体ロケットで、1段目にクラスタエンジン、2段目に機能エンジンを搭載している。

超小型衛星用ロケット「ZERO」の概要超小型衛星用ロケット「ZERO」の概要 超小型衛星用ロケット「ZERO」の概要[クリックで拡大] 出所:IST

 ZEROが対象とするのは重量が1k〜10kgのナノ、同10k〜200kgのマイクロといった超小型衛星で、高度3万6000kmにもなる静止軌道ではなく、高度約500kmの低軌道や極軌道への打ち上げを行う。近年では、大型衛星との相乗りや同時打ち上げによって打ち上げコストを削減する例が多いが、これらの場合、スケジュールの遅れや調整の面倒さ、ミッションの制限などのデメリットがある。ZEROは、専用打ち上げロケットであるためこれらのデメリットはなく、打ち上げコストもISTの技術によって低減できるという。

「ZERO」で実現するISTの宇宙輸送サービス 「ZERO」で実現するISTの宇宙輸送サービス[クリックで拡大] 出所:IST

 稲川氏は「設計から打ち上げまで、自社で一気通貫の開発体制をとることでムダや余分なコストを省き、スピーディーな開発と製造を行う、低価格を実現する」と強調する。アジア圏、欧州圏においてペイロード150kg以下で最も安価な打ち上げコストを目指している。

一気通貫の開発体制で低コスト化を実現 一気通貫の開発体制で低コスト化を実現[クリックで拡大] 出所:IST

 ZEROは、ロケット燃料に液化メタンを用いることも特徴の一つだ。酪農/畜産の農家から出る牛のふん尿から得られるバイオメタンガスを使用する。既に北海道帯広市が、バイオメタンガスのプラントを建築しており、2023年以降のZEROの燃焼試験に使用する予定だ。「拠点となる北海道という地域への貢献と経済合理性から液化メタンの採用を決めた」(稲川氏)という。

「ZERO」はロケット燃料に液化メタンを用いる 「ZERO」はロケット燃料に液化メタンを用いる[クリックで拡大] 出所:IST

 2022年度におけるZEROの開発は、ペイロード部となるフェアリング、電気制御部のアビオニクス、アルミ製で軽量の燃料タンク、エンジンの心臓部となるターボポンプ、エンジンバルブシステム、エンジンの燃焼器などの各構成要素で順調に進んでいる。北海道大樹町内の打ち上げ射場も着工済みだ。2023年度は、各部品を組み合わせた燃焼試験、エンジン全体の統合燃焼試験などを進めて、2024年度にはロケットとしての最終試験を行い、初号機の打ち上げを目指す方針だ。

「ZERO」の開発スケジュール 「ZERO」の開発スケジュール[クリックで拡大] 出所:IST

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