「誰もが宇宙に手が届く未来」をビジョンに掲げるISTは、今後の成長が見込まれる宇宙産業によって日本が抱える課題の解決に貢献していきたい考えだ。宇宙を開発することで「SDGsへの貢献」を実現しつつ、日本の製造業をけん引する自動車産業がEV(電気自動車)の登場によって受ける産業変革の影響を、宇宙産業の成長が構造変化の受け皿となって、日本の雇用を守っていきたい考えだ。「内燃機関車の部品点数が3万点であるのに対してEVは2万点と少ないことから、部品サプライヤー網が崩壊し自動車産業全体で雇用を維持できなくなるといわれている。このEVシフトの影響による雇用減の受け皿になるのが宇宙産業だ」(稲川氏)。
現在、国内の宇宙産業は就業者数が約1万2000人、市場規模は約1兆2000億円。ISTは、将来的には就業者数が12万人、市場規模は約30兆円まで拡大すると予測しており、そこで自動車関連人材を積極活用できると見込んでいる。
国内産業への貢献だけでなく、宇宙輸送を行う国内プレイヤーが今後より重要になることもISTの事業に大きく関わってくる。稲川氏は「宇宙産業の成長とともに小型衛星の打ち上げ数も増えているが、その多くが海外で打ち上げを行っている現状がある。その一方で、ロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、国家安全保障の観点からも自国での衛星打ち上げを安定して行えることが不可欠になっている」と説明する。
グローバルの宇宙産業市場規模は2021年の43兆円から2040年には115兆円に拡大すると予想されているが、打ち上げ需要の多くは小型衛星が中心になっている。500kg以下の小型衛星の打ち上げ実績は、2011年には28基にすぎなかったが、2019年に389基、2020年1202基、2021年には1743基と急増しており、今後は小型衛星を一体運用するコンステレーションの時代になるとみられている。
しかし、日本国内の衛星打ち上げ用のロケットはJAXAが手掛けるH-IIAや「イプシロン」が中心で、打ち上げ回数も多いとはいえない。2022年の打ち上げ成功数は、イプシロン6号機の失敗もあり“0回”になってしまった。「米国や中国では毎週のように打ち上げられているのに、日本が0回というのは衝撃的な結果だ。技術がないわけではないのに打ち上げ回数を増やせていないというのが、日本の宇宙輸送の現状だ」(稲川氏)。結果として、国内の打ち上げ需要のうち「ざっくり半分くらい」(同氏)が海外に流出している。
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