中小企業に勤める筆者が特に楽しみだったのは「中小企業DX:実例から読み解く中小企業の処方箋」というセッションだ。
冒頭、NHKで放映されたTVドラマ『マチ工場のオンナ』(原作名:『町工場の娘 主婦から社長になった2代目の10年戦争』)の原作者であり、主人公のモデルでもあるダイヤ精機 代表取締役の諏訪貴子氏が「中小企業のDX化への事例とポイント」と題して講演を行った。
諏訪氏は、社長就任後の社内改革の1つとして、現場の進捗(しんちょく)管理と実績収集を目的とした生産管理システムの全面変更に着手。社員構成が熟練者から若手へと変化する中での、“生産性の低下”という課題を解決するために、「企業の情報管理による情報共有化」を推進することで業務の効率化を目指そうと考えた。そこで、クラウド型の生産管理システムの導入に踏み切り、間接部門を含めた全社での情報の整流化と、「いつでも、どこでも、誰でも」が利用できる仕組みを取り入れたのである。
筆者も新たなシステム導入の経験があるが、特に“社内への定着”は容易ではなかった。講演の中で、諏訪氏が述べた「まずは3週間続けさせて、習慣化させる」という言葉には感銘を受けた。
続いて、諏訪氏がファシリテーターを務め、ゲストスピーカーとして、過去にも同イベントに登壇され、航空宇宙市場にも参画している由紀ホールディングス 代表取締役社長の大坪正人氏、都市型先進モノづくりを推進し、ベンチャー支援などを行う「Garage Sumida」も運営する浜野製作所 代表取締役 CEO(最高経営責任者)の浜野慶一氏、GROOVE Xの「LOVOT」や近未来を想像させる電動バイク「zecOO」など、工業デザイナーとして数々のプロダクトを手掛けてきたznug design 取締役の根津孝太氏の3人を招いたパネルディスカッションが行われた。
このパネルディスカッションで感じたキーワードは「人材育成と、これができる場づくり」であったと筆者は考える。
大坪氏からは、自身が代表理事を務める「ファクトリーサイエンティスト協会」の活動を踏まえ、ファクトリーサイエンティストの育成に関する話があった。現在、製造業では、DX(デジタルトランスフォーメーション)/IoT(モノのインターネット)化が進んでいるといわれる。だがその一方で、多くの企業では、IoTデバイスやセンサーなどを用いて収集した膨大なデータの解析や可視化、さらには、そこから価値を生み出すことができる人材が不足している。これは中小企業だけの問題ではなく、大手企業でも同様であり、大坪氏の話から「DX/IoTを特別なものと思わずに、自発的に学ぶことの重要性」を強く実感することができた。
また、諏訪氏からはリスキリング(職業能力の再開発/再教育)についての話があった。このリスキリングと、人材育成として「あこがれる人物=ファクトリーサイエンティスト」を目指す大坪氏の考えはリンクしており、自発的に学ぶことの大切さとともに、必要な知識を体系的に学べる機会(場)がいかに重要であるかがよく分かった。
浜野氏は経営者の視点から、多様性の時代、自発的に手を挙げられるような教育やチャンスの場を提供することの重要性を説くとともに、採用活動の面では、かつての人工(にんく)採用から、理念採用に変化していることが示された。この理念とは、パーパス(存在意義)経営につながるものであり、企業で必要とされる人材(の育成)へとつながるものだといえる。
根津氏は人材育成という“場づくり”の話から、そもそも「良い会社とは」という話題を取り上げ、「コミュニケーションが成立するか、しないか」が会社の良しあしを決めるポイントになると指摘する。そして、根津氏は「コミュニケーションができることは、議論/技術のスパイラルアップにつながる」と述べるとともに、コミュニケーションの際は、「どれだけ前のめりになれるか」も重要だとの考えを示す。
エンジニアである筆者も、これらの考えには同感である。同じ土俵で、どれだけ技術を突き詰められるのか、これができる社風があるのかはとても重要なことだ。そうした社風は、企業の経営理念によって醸成されるものであり、その理念には、経営思想、存在意義、社会価値を見いだすといった強い思いが込められている。これこそビジョンである。
ビジョンが明確な企業とは、つまり、自分たちで何ができるのか、強みや考える力を備えた企業だということであり、下請け体質から脱却した自立した経営へとつながり、成長が促進される。そして、それが良い会社の理想の姿であるとするならば、その実現に向けて、コミュニケーションによる議論/技術のスパイラルアップが不可欠だと考える。また、これを実践、実感できる環境が良い会社だともいえるだろう。
こうした考えを実践するのは、簡単なことではない。不景気によって、もともとあったはずのビジョンが失われてしまった企業もあるかもしれないが、これを再考していくことが中小企業への処方箋だということを、今回のパネルディスカッションから学ぶことができた。そして、諏訪氏が述べていた「笑いで終われる会社」こそ、良い会社の象徴であり、あるべき会社の姿であると確信した。
3DEXPERIENCE WORLD JAPAN 2022に参加し、あらためてリアル会場で得られる情報の新鮮さと、その熱量を肌で感じることができた。久しくオンラインでは体験できなかったことである。ここに集まる人々全てがSOLIDWORKSコミュニティーであり、そこでの会話から新たな気付きを得ることができる楽しさを久しぶりに味わえた。
SOLIDWORKSが新たなポートフォリオとして展開を強化する「3DEXPERIENCE Works」のキーワードでもある“CONNECTED”は、クラウドプラットフォームとのつながりだけを意味するものではなく、人と人をつなげることも含まれているように感じる。
既存のデスクトップ版SOLIDWORKSのユーザーに対し、クラウドを活用したプラットフォームの利点を訴求する3DEXPERIENCE Worksは、単なる道具(ツール)の置き換えではなく、モノづくりの在り方を再考するための“原点回帰”をもたらし、次の一歩を踏み出すための原動力になると感じている。SOLIDWORKSユーザーとして、3D CAD推進者として、筆者自身もこの変化をポジティブに捉えて、さらなる成長につなげていきたいと思う。そして、2023年2月に、米国で開催される「3DEXPERIENCE WORLD 2023」では、さらにわれわれに強いメッセージを与えてくれると期待している。
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