出願すべきか秘匿化すべきか、権利化するとしてどのような権利の取得を目指していくか、特許庁への出願後の特許庁とのやりとり(いわゆる中間対応※2)はどうするかなどを検討する場面では、発明者であるメンバーの協力が不可欠なことが少なくありません。これらの手続きに協力してもらうべく、本条項案のような条項を設けることが望ましいでしょう。
※2:中間対応の具体的なイメージを持ちたい方は、堀進「特許出願の中間手続の実務〜良い意見書・補正書の条件〜」(パテント2009 Vol. 62 No. 13)などを参照されたい。
(相当の利益)
第7条 会社は、第4条の規定により職務発明について特許を受ける権利を取得したときは、発明者に対し次の各号に掲げる相当の利益を支払うものとする。ただし、発明者が複数あるときは、会社は、各発明者の寄与率に応じて案分した金額を支払う。
一 出願時支払金 ○円
二 登録時支払金 ○円
相当の利益をいかに設定するかは、スタートアップにとって重要なポイントです。上記の条項案は金銭のみを相当の利益として想定したものですが、金銭以外のものも選択肢に加えるべきでしょう。上記条項案のように、職務発明規程に支払金額を記載することも考えられますが、計算式などは別途基準を定める場合も少なくありません。そのため、これを踏まえ、筆者は以下の修正案を作成してみました。
(相当の利益)
第7条 会社は、第4条の規定により職務発明について特許を受ける権利を取得したときは、発明者に対し、別途定める「職務発明報奨規則」に定める基準に従い、次の各号に定める報奨金を支払うものとする。ただし、発明者が複数あるときは、会社は、各発明者の寄与率に応じて案分した金額を支払う。
一 出願時支払金
二 登録時支払金
2 会社は、前項の規定にかかわらず、発明者に対し、「職務発明報奨規則」の基準に従い、次の各号に掲げる経済上の利益を付与することができる。
一 新株予約権の付与
二 金銭的処遇の向上を伴う昇進又は昇格
(支払手続)
第8条 前条に定める相当の利益は、出願時支払金については出願後速やかに支払うものとし、登録時支払金については登録後速やかに支払うものとする。
前条の変更に伴い、金銭の支払以外の付与手続も踏まえ、以下の条項案を追加する必要があるでしょう。
(付与手続)
第8条 前条1項に定める相当の利益は、出願時支払金については出願後速やかに支払うものとし、登録時支払金については登録後速やかに支払うものとする。
2 前条2項に定める相当の利益の付与時期は、「職務発明報奨規則」にて定めるものとする。
(実用新案及び意匠への準用)
第9条 この規程の規定は、従業者等のした考案又は意匠の創作であって、その性質上会社の業務範囲に属し、かつ、従業者等がこれをするに至った行為が当該従業者等の会社における現在又は過去の職務範囲に属するものに準用する。
8条までの規定は、職務発明のみを対象としたものであるため、意匠の創作及び実用新案の考案を従業員が職務として行った場合にも本規程が準用されるようにしています。もっとも、実用新案の考案に関していえば、スタートアップはあまり活用する機会はないかもしれません。なお、意匠の場合や実用新案の場合には、職務発明の場合と報奨金や相当の利益の内容を別に定めることも考えられます。
(秘密保持)
第10条 職務発明に関与した従業者等は、職務発明に関して、その内容その他会社の利害に関係する事項について、当該事項が公知となるまでの間、秘密を守らなければならない。
2 前項の規定は、従業者等が会社を退職した後も適用する。
秘密管理規程でも守秘義務などを定めていますが、こちらの第10条は出願後、出願が公開されるまでに出願内容を公表されてしまうことを防止するべく、従業員に職務発明の内容などについて守秘義務を課す条項となっています。
(適用)
第11条 この規程は、○○○○年○月○日以降に完成した発明に適用する。
なお、その他、以下の条項を設けることも考えられますが、会社の状況等を踏まえ、その採否を検討することが望ましいでしょう※3。
※3:さらなる検討については、郄橋淳=松田誠司『職務発明の実務Q&A』(勁草書房、2018年)を参照されたい。
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