カーボンニュートラルへの挑戦

サプライヤーのCO2削減努力を適切に見える化するには何が必要か製造業×脱炭素 インタビュー(1/2 ページ)

脱炭素に向けた取り組みが製造業で急速に広まる中、業界共通の課題として認識されるものの1つが「スコープ3」の削減だ。対策の第一歩として、CO2排出量の見える化が重要になるが、自社サプライチェーン全体の可視化は容易なものではない。製造業におけるCO2排出量の見える化の現状について、booost technologies 代表取締役に話を聞いた。

» 2022年09月08日 08時00分 公開
[池谷翼MONOist]

 脱炭素に向けた取り組みが製造業で急速に広まる中、業界共通の課題として認識されるものの1つが、GHG(温室効果ガス)プロトコルにおける「スコープ3」の削減対策だ。事業所やオフィスなどからの排出だけでなく、原材料の調達から製品の輸配送、製品使用時や廃棄など、サプライチェーン全体の排出量をいかに抑えるかが問われている。

 こうした削減対策の第一歩として重要なのが、CO2排出量の見える化である。自社サプライチェーン全体の排出量を正確に把握できれば、効果的な削減対策も打ち出しやすくなる。だが、サプライチェーンにはサプライヤーを含めて多くのステークホルダーが関与する。全体のCO2排出量を見える化する取り組みは、一朝一夕にできるものではない。

 現状、CO2排出量を見える化する取り組みは、製造業ではどのように進んでいるのか。CO2排出量の見える化ソリューションなどを展開するbooost technologies 代表取締役の青井宏憲氏に話を聞いた。

JEITAのコンソーシアムに参加

MONOist booost technologiesは電子情報技術産業協会(JEITA)が設立した、企業の脱炭素実現を目指す「Green x Digitalコンソーシアム」で、見える化WG(ワーキンググループ)に運営委員として参加しています。

booost technologiesの青井宏憲氏 出所:booost technologies

青井宏憲氏(以下、青井氏) 見える化WGには現在、当社を含め70数社の企業が参加している。WGでディスカッションした内容は政府への提言としてまとめられるが、そのまとめる作業に、CO2排出量の見える化を専業とするスタートアップとして、当社が唯一参加している形だ。

 当社は2015年4月に創設したスタートアップで、エネルギーマネジメントや顧客管理を行うシステム「ENERGY X」と、CO2排出量の自動算出と見える化を行うERPシステム「ENERGY X GREEN」の2つを軸に展開している。コンサルティングやカーボンオフセットを含めて、ワンストップで企業の脱炭素化支援ができる点が強みだ。

booost technologiesの展開するENERGY XとENERGY X GREEN[クリックして拡大] 出所:booost technologies

 パートナー企業にはコンサルティング会社や金融機関などがあり、随時、各社と協業や提携を行っている。直近の導入事例では、小売り大手のイオンがENERGY X GREENを活用したシステムを取り入れた。イオングループの全拠点におけるCO2排出量を見える化するとともに、CO2排出量の実測値である一次データをサプライヤーから取得するなどの機能を実現している。

イオンでの導入事例[クリックして拡大] 出所:booost technologies

完成品メーカーとサプライヤーの間に温度差?

MONOist 製造業全体でのCO2排出量の算定や可視化について、現状の進み具合をどのように捉えていますか。

青井氏 製造業では大手企業でも、算定のルール作りがまだしっかりとなされていない印象がある。製品単位でCO2排出量を積み上げ方式で算定するのか、それとも組織全体の排出量を割り戻す方式で行うのか、こうした点もはっきりとしていないのが現状だ。

 また完成品メーカーと比べると、脱炭素に対するサプライヤーの熱量はあまり高くないと感じる。「そもそも、なぜスコープ3の算定が必要なのか」など、基本的な点に関する疑問もまだ多い。当社を含めたJEITAでの取り組み内容と、実際のドライバーである企業の取り組みとの間に温度差があるかもしれない。

 この他、自動車完成品メーカーやトップティアの製造業では、2022年度よりExcelファイルを配布し、実測値によって算定することをサプライヤーの上位層に求めている。それにサプライヤー自身がIoT(モノのインターネット)センサーで取得したデータを手作業で転記するのだが、細かい算定ルールはサプライヤー自身にゆだねている。ヒューマンエラーが起こりかねないので、データ収集の自動化や効率化の推進も考えていくべきだろう。

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