NTTは、1波長当たり1.2Tbpsの光伝送を実現するデジタルコヒーレント信号処理回路と光デバイスを開発したと発表。これまでは1波長当たりの容量は800Gbpsが最大だったため「世界最大」(同社)を実現した。800Gbpsの光伝送距離を2倍以上に拡大することにもつなげられるという。
日本電信電話(以下、NTT)は2022年9月5日、1波長当たり1.2Tbpsの光伝送を実現するデジタルコヒーレント信号処理回路と光デバイスを開発したと発表した。これまでは1波長当たりの容量は800Gbpsが最大だったため「世界最大」(同社)を実現したことになる。また、光伝送の容量増大では多値レベルを高める手法があるものの伝送距離が制限されてしまうことが課題になっていた。今回の開発成果は、独自開発のデバイスにより光信号の変調速度を世界最高速の140Gbaud(ギガボー)まで高速化しているため、800Gbpsの光伝送距離を2倍以上に拡大することにもつなげられるという。
開発した技術は、光の偏波、振幅、位相を全てデジタルデータとして取り込み、高度な信号処理によって光ファイバー伝送路や光電子デバイス中で発生する信号歪みを補償するデジタルコヒーレント光伝送システムに適用される。世界最高水準のデジタルコヒーレント信号処理回路と、世界最大級の光−電気応答帯域を実現する140ギガボー超級の光デバイスから構成されている。
受信側に配置した光源と受信した光信号を干渉させることにより光の振幅と位相を受信するコヒーレント受信にデジタル信号処理を組み合わせた伝送方式を担うのが、デジタルコヒーレント信号処理回路だ。理論限界に迫る伝送性能を有する最先端の符号化変調技術と、低消費電力に大容量データのビット誤りを訂正できる前方誤り訂正技術を組み合わせることで、光デバイスが有する高速/広帯域性能の潜在力を最大限に引き出すフレキシブル符号化変調を実現した。さらに、光ファイバー伝送の信号歪みを低消費電力に補正するアルゴリズムや最先端の半導体製造プロセスの活用により、1波長当たり1.2Tbpsのデジタル信号処理を実現している。
一方、140ギガボー超級光デバイスは、NTT独自構造を採用した世界最高速級の光素子と高速信号を低損失に伝える新パッケージを適用することで超高速の光変調を実現した。これらの技術を偏波多重64QAMに適用した符号化変調光信号により、1波長当たり1.2Tbpsを実現した。
現在広く普及している商用光伝送システムの容量は1波長当たり100Gbpsである。今回の開発成果により、従来比で12倍となる1波長当たり1.2Tbpsに伝送速度を高速化できるとともに、既存の光送受信器と比較してビット当たりの消費電力を10分の1以下に削減が可能となる。
近年の映像データの流通拡大やクラウド技術の進展に加え、5Gサービスなど新しい情報通信サービスの普及、さらにはリモートワークの急速な普及に伴い、情報通信トラフィックは増大の一途をたどっている。このような状況に対応するためには、基幹系の光通信ネットワークでは、単位ビット当たりの伝送に必要となる消費電力とコストを、10年で10分の1程度のペースで低減することが求められている。
しかし、これまでの技術では、さらなる大容量化に伴う通信用デバイスの消費電力増大を大幅に削減することは困難だった。NTTは、既設の光伝送システム容量を経済的かつ大幅に拡張できる世界最高水準の光伝送技術および光デバイス技術の開発を進めており、今回の開発成果はその一環となる。
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