企業が生み出す付加価値はどのように変化しているでしょうか。事業所規模ごとの推移を表した図3をご覧ください。なお、おさらいになりますが、付加価値の合計値がGDPと呼ばれる指標になります。
4〜29人規模や30〜99人規模の小規模事業所で、付加価値が大きく減少している状況が分かります。さらに、なんと300人以上の大きな事業所でも付加価値額が減少しているようです。どの事業所規模でも、稼ぎ出す付加価値がおおむね減っているというのは、本当に厳しい状況ですね。
日本の製造業は大企業を中心に海外進出が進んでいますが、その一方で国内では経済規模が縮小しているわけです。しかもその縮小傾向は、特に小規模事業所においてよく表れており、市場での淘汰が進んだという実態が見えたように思います。
最後に日本の製造業全体の変化について、まとめてみましょう。図4は、従業者4人以上の事業所を対象に、事業所数や従業者数、付加価値額、1人当たり付加価値(生産性)について、1998年の水準を100%として変化の割合をグラフ化したものです。
事業所数は約37万4000から約18万2000へと半減しています。また、従業者数は約984万人から約772万人と2割以上、付加価値額は約113兆2000億円から約100兆2000億円へと1割程度減少しています。
ただし、生産性の低さが指摘される小規模事業所が極端に減少したことで、皮肉にも全体としての生産性は約1151万円から約1299万円へと1割ほど向上した状況です。製造業のGDPが減少していることは前回も述べましたが、その背景には小規模事業所の淘汰という実態があるようです。
ちなみに、今回の調査は従業者4人以上の事業所を対象としましたが、4人未満の規模の事業所もデータをご紹介します。
事業所数:約15万6000事業所
従業者数:約30万3000人
これらの零細事業所は、小規模事業所よりも淘汰が進んでいったのでしょう。当社の周辺でも、メッキ屋さんや溶接屋さんといった家族経営型の町工場がどんどん姿を消しています。
これを製造業全体で見ると、産業全体の合理化が進んだという捉え方もできるのかもしれません。しかし筆者としては、実際には産業自体の多様性が失われているように感じます。
次回は製造業の細かい業種の変化や、都道府県別の変化についても着目していきたいと思います。
<補足説明>
事業所とは「1区画を占めて経済活動を行っている場所」のことです。つまり、1つの企業でも2か所に工場や事務所を持っていれば、事業所数は2ということになります。
従業者とは、「年末現在の常用労働者数と個人事業主および無給家族従業者数と臨時雇用者の計」を指します。ただし、統計表でいう「従業者数」は臨時雇用者を除いています。
(いずれの語句も経済産業省の「工業統計調査の用語について」より引用)
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⇒前回連載の「『ファクト』から考える中小製造業の生きる道」はこちら
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小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
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