帝京大学 理工学部 バイオサイエンス学科 教授の柳原尚久氏の研究チームがテフロン(ポリテトラフルオロエチレン:PTFE)のケミカルリサイクルに成功。テフロンは耐薬品性や耐熱性が高いが故にケミカルリサイクルが難しいとされてきたが、新たに開発した手法によりテフロンから蛍石の主成分であるフッ化カルシウムを回収できるようになった。
帝京大学は2022年8月22日、同大学 理工学部 バイオサイエンス学科 教授の柳原尚久氏の研究チームがテフロン(ポリテトラフルオロエチレン:PTFE)のケミカルリサイクルに成功したと発表した。テフロンは耐薬品性や耐熱性が高いが故にケミカルリサイクルが難しいとされてきたが、新たに開発した手法によりテフロンから蛍石の主成分であるフッ化カルシウム(CaF2)を回収できるようになったという。
新たに開発した手法は2段階に分かれる。1段階目では、溶融状態にした水酸化ナトリウム(NaOH)を用いてテフロンをフッ化ナトリウム(NaF)に分解する。所定量のテフロンと水酸化ナトリウムをアルミナのるつぼに入れて500℃で3時間反応させると、フッ化ナトリウム(NaF)と炭酸ナトリウム(Na2CO3)、未反応の水酸化ナトリウムから成る固体の分解生成物が得られる。なお、これらのナトリウム塩は全て水溶性である。
2段階目では、分解生成物を水に溶かした水溶液のpHを弱酸性に調製した後、塩化カルシウム(CaCl2)水溶液を滴下する。その結果として得られる白色沈殿物がフッ化カルシウムである。なお、第1段階目のナトリウム塩、第2段階目のフッ化カルシウムの生成は、粉末X線回折によって確認している。分解反応のメカニズムは現段階では解明できていないが、500℃という水酸化ナトリウムやテフロンの融点よりも高い温度における反応により高分子であるテフロンがオリゴマーや低分子に切断され、溶融した水酸化ナトリウムから生じる酸化物イオン(O2−)や過酸化物イオン(O22−)がこれらの低分子化合物を攻撃する結果として、フッ化ナトリウムなどが得られていると想定している。
これまでフッ素系ポリマーのケミカルリサイクルでは、酸素(O2)や過酸化水素(H2O2)、過マンガン酸カリウム(KMnO4)といった酸化剤を共存させた超臨界水あるいは亜臨界水を用いて分解できるという事例が報告されていたが、フッ素系ポリマーの中で最大の需要があり、321℃と最も融点の高いテフロンを鉱物化するケミカルリサイクルの手法は報告されていなかった。今回は、その初の事例であるとともに、水酸化ナトリウムや塩化カルシウムといった汎用試薬の使用と簡便な化学反応によって、テフロンから短時間でフッ化カルシウムを選択的に回収できる点も特筆すべき成果だとしている。
新たに開発した手法は、テフロン以外にも、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの二元共重合体などのフッ素系ポリマーを容易に分解し、高収率(52〜84%)で鉱物化することが確認されている。フッ素以外のハロゲン元素(塩素:Cl、臭素:Brなど)を有するポリマーも分解可能になることが期待でき、ハロゲン含有化合物の無害化にも役立てられる可能性もある。
テフロンをはじめとするフッ素系ポリマーは、広く知られているフライパンのコーティング剤だけではなく、自動車用部品や半導体製造装置、電線被覆、光ファイバーケーブル被覆材など、日用品から最先端素材に至るまで非常に幅広く利用されている。ただし、廃棄については、燃焼廃棄の場合は優れた耐熱性が故に高温での焼却が必要で、焼却時の副成物であるフッ化水素(HF)ガスの影響で焼却炉が劣化することもあり、大半が埋め立てられていることが課題になっていた。
また、フッ素系ポリマーの合成に用いられるフッ化水素酸は、フッ化カルシウムを主成分とする蛍石に濃硫酸を加えて加熱し、発生するHFガスを水に吸収させて得るのが一般的だ。日本には蛍石の鉱脈がないため輸入に依存しており、特に中国への依存度が高い。今回開発した手法によるフッ素系ポリマーのケミカルリサイクル技術により、埋め立てからリサイクルへの移行が可能になるとともに、輸入に依存するフッ化カルシウムの入手にもつなげられるとしている。
なお、今回の研究成果は英国王立化学会の論文誌「Green Chemistry」に掲載された。
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