通信キャリアにおける5Gシステムの構成のトレンドについても言及があった。現在の5Gのメインストリームである周波数6GHz以下のサブ6とTDD(時分割複信)を用いる「ミッドバンドTDD」と、サブ6よりも低い周波数帯とFDD(周波数分割複信)を用いる「ローバンドFDD」、そしてより高速な通信が可能になるミリ波を組み合わせて、3段構成のケーキのようになったレイヤー化アーキテクチャが想定されるという。ただし、都市部などで1G〜2Gbpsの通信速度を可能にするミッドバンドTDDに対して、より広域をカバーするローバンドFDDの通信速度は100M〜200Mbpsにとどまるという。ピーク性能で4G〜5Gbpsの通信速度が可能なミリ波については「まだ限定的」(チョー氏)というのが実情だ。
今後の5Gシステムのトレンドは、ミッドバンドTDDとローバンドFDDのキャリアアグリゲーションになりそうだ。チョー氏は「米国のT-MobileはミッドバンドTDDにビームフォーミングを組み合わせることで、AT&Tやベライゾンを大きく上回る通信速度(ダウンリンク)を実現しマーケットリーダーに躍り出た。ミッドバンドTDDとローバンドFDDのキャリアアグリゲーションを行えば、単にローバンドFDDによりエリア拡大だけでなく、ミッドバンドTDDのエリアカバレッジを30%広げる効果も得られる」と強調する。
無線基地局のエネルギー効率改善については4つの要素で複層的に実現していく構えだ。まず、先述した新開発のSoCを採用したハードウェアによって15%の効率化が可能になる。次に、4Gから5Gといった新たな通信技術への移行で10倍もの効率化を図れるとする。そして、四半期に1回リリースするソフトウェアの最適化によって25%の効率化を行う。最後に、通信ネットワークの運用などに対してAI(人工知能)やML(機械学習)を適用することで15%の効率化につなげる。
これらの他に、これまで空冷が当たり前だった無線基地局の冷却システムについて、世界で初めて液冷を導入した事例を報告した。基地局の空調システムなどによるCO2排出量を最大で80%削減することが可能だという。チョー氏は「屋外向けベースバンド処理装置のリーダーとして液冷技術を開発した。従来と比べて、液冷システムのエネルギー消費量とCO2排出量を90%削減できている」と述べる。
会見の会場では、開発した液冷システムを披露した。液冷システムは外付けで、冷却液としては数l(リットル)の水を用いる(ドラッグストアで購入した精製水とのこと)。ベースバンド処理装置に組み込むモジュールは液冷対応の冷却構造になっている。
なお、液冷システム単体ではCO2排出量とエネルギー消費量を30%削減する効果が得られており、これにVPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)などさまざまな機能を組み合わせることで、CO2排出量の最大80%削減を実現できるとのことだった。
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