耐久レースに同じマシンで出場可能に、群雄割拠のプロトタイプスポーツカーレースモータースポーツ超入門(15)(1/3 ページ)

プロトタイプスポーツカーレースが群雄割拠の時代を迎える。2023年からFIA世界耐久選手権(WEC)の「ル・マン・ハイパーカー(LMH)」規定と、北米で行われるウェザーテック・スポーツカー選手権(WTSC)の「LMDh(ル・マン・デイトナ・ハイブリッド)」規定との相互乗り入れが実現するからだ。

» 2022年07月20日 06時00分 公開
[福岡雄洋MONOist]

 プロトタイプスポーツカーレースが群雄割拠の時代を迎える。2023年からFIA世界耐久選手権(WEC)の「ル・マン・ハイパーカー(LMH)」規定と、北米で行われるウェザーテック・スポーツカー選手権(WTSC)の「LMDh(ル・マン・デイトナ・ハイブリッド)」規定との相互乗り入れが実現するからだ。これにより「ル・マン24時間耐久レース」や「デイトナ24時間レース」といった世界的に有名な耐久レースへの出場が同一マシンで可能になるため、多くの自動車メーカーがワークス参戦を表明し、マシン開発を急いでいる。

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 LMHとLMDhは、いわばプロトタイプスポーツカーのグローバルプラットフォームといえるものだ。ル・マン24時間レースを主催するフランス西部自動車クラブ(ACO)と、ウェザーテック・スポーツカー選手権を運営する国際モータースポーツ協会(IMSA)が共同で作り上げ、相互交流(コンバージェンス)を実現させた。

 すでにシリーズ参戦している自動車メーカーも含めると、トヨタ自動車、プジョー、フェラーリ、ポルシェ、BMW、アキュラ、キャデラック、アルピーヌ、ランボルギーニが、両シリーズのトップカテゴリー(WECはハイパーカークラス、ウェザーテック・スポーツカー選手権はGTPクラス)に相互参戦することが可能になる。

 現時点で両シリーズへの同時参戦を表明しているのはポルシェやランボルギーニなど一部にとどまるが、ル・マン24時間耐久レースやデイトナ24時間レースには、それぞれのシリーズ戦を超えて参加するものとみられている。

ポルシェのLMDhマシン「ポルシェ963」[クリックで拡大] 出所:ポルシェ

LMHとLMDhの規定の違い、LMDhはコスパ重視

 2023年シーズンから相互乗り入れが可能になるLMHとLMDhだが規定内容は異なる。LMHは、WECの2020/2021年シーズンから採用されている最高峰クラスの車両規定。それまでのレース専用スポーツカー「LMP(ル・マン プロトタイプ)」に代わり導入されたもので、LMHは市販車がベースになっている。ベース車両については2年間で20台以上の車両を生産し、認証(ホモロゲーション)を受ける必要がある。

 車両スペックは全長5000mm以下、全幅2000mm以下、全高は基準面より1150mm以上、最低車重は1030kgと規定されている。エンジン形式や排気量は自由。ハイブリッドシステムの搭載も認められているが、システムの最高出力は680馬力(500kW)に制限されている。ちなみに、トヨタが昨シーズンまで使用していたLMP1-Hマシン「TS050ハイブリッド」のシステム出力は1000馬力を発揮していた。タイヤについてはミシュランのワンメーク供給となっている。

 一方、LMDhは、ウェザーテック・スポーツカー選手権の最高峰クラスで車両規定でもある「DPi(デイトナ・プロトタイプ・インターナショナル)」の後継となる。DPiが2022年シーズンで終了することに伴い採用され、クラス名称はDPiから「GTP」に変更される。

 LMDhは、LMHよりもコストパフォーマンスに優れたマシン開発が可能となる。シャシーコンストラクター4社(リジェ、オレカ、ダラーラ、マルチマチック)が提供するシャシーから1つを選んで使用し、ギアボックスはエクストラック社が単独供給する。ハイブリッドシステムの構成部品も共通化されており、モーターはボッシュ、バッテリーはウイリアムズ・アドバンスド・エンジニアリングが供給。タイヤもミシュランのワンメークとなる。また、LMHとの性能差を補完するためBoP(性能調整)も行われる。

 車両スペックは若干の差だ。全長は5100mm以下、全幅は2000mm以下で、ホイールベースは全車共通の3150mm。最低車重は1030kgとなっている。

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