われわれの試算では、CO2排出量、コスト、供給量の観点を踏まえると、例えば、乗用車においてはEVとFCV(燃料電池車)が有望な脱炭素技術オプションと想定する。裏を返せば、有望な脱炭素技術の選択肢は各技術のコスト低減の動向次第ともいえる。特にFCVとe-fuel(再エネ由来の合成燃料)は、2030年に向け大幅なコスト低減が想定されおり、将来の振れ幅は大きくなる。
例えば、前述の2℃抑制シナリオでは、脱炭素化に向けて電気と水素を併存させるエネルギー社会、「電気・水素社会」の実現に世界が動いている。ただし、今後の技術革新次第では、異なる手段で脱炭素社会を実現させるシナリオも否定はできない。パワートレイン別の普及パターンは、当面の石油代替手段と、将来の脱炭素技術の構成から大きく5つに分類できる。
グローバルの主要な自動車メーカーの経営陣、特にオフハイウェイ系(建設機械、農業機械、鉱山機械など)のプレイヤーへのインタビューからは、完全な脱ディーゼルエンジン化はせず、複数のパワートレインを使い分けていく様子がうかがえる。「ディーゼルエンジンからの完全脱却」は建前、もしくは時期尚早であり、実際は、現時点では完全なる電動化シフトはユーザーメリットを考えると推し進めにくい。
経営のかじ取りやフォーカスするパワートレインに関する意思決定を下すには、脱炭素社会や脱炭素技術のトレンドに加え、新車の全需見通し、パワートレインの進展予測の4要素で算出する将来の国別×アプリケーション別のパワートレイン台数シミュレーション、競合他社の動向による判断が求められているのである。
では、パワートレイン以外の「主となる技術」の方向性はどうであろうか? 次回はコアアセット活用動向について、各業界のキープレイヤーの技術戦略や特許ヒートマップなどのベンチマークから見えるコアアセットの活用ベクトルの具体的変化を紹介したい。
スタートアップや複数の外資系コンサルティング会社での経験を経て、EYに参画。自動車業界を中心に20年以上にわたり、経営戦略策定、事業構想、マーケット分析、将来動向予測等に従事。
EYではAMM商用車チームリーダーとして商用車・物流業界を軸としたBtoB、BtoBtoCに関するコンサルティングサービスを提供すると同時に、産業の枠組みを超えたモビリティ社会の構築支援に注力。
近年は経済産業省、国交省、内閣府、東京都をはじめとする官公庁の商用車・モビリティ領域のアドバイザーを務めるとともに、スマートシティー等の国際会議のプレゼンター・プランナーとして社会創生にも携わる。
世界70カ国以上においてコンサルティングの経験を持つ。
主な著書に『モビリティー革命2030』(日経BP、2016年、共著)。他寄稿、講演多数。
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