現在から将来に向けた自動車の先進技術戦略を考察する上で、まずはパワートレインに言及したい。その前提として、今や自動車産業を越えた社会アジェンダでもある、CO2削減の方向性の確認から始める。
現在から将来に向けた自動車の先進技術戦略を考察する上で、まずはパワートレインに言及したい。その前提として、今や自動車産業を越えた社会アジェンダでもある、CO2削減の方向性の確認から始める。
世の中にはCO2削減やカーボンニュートラルなどに関するさまざまな試算があふれているが、1つのシナリオとして、「2℃抑制」を起点にする考え方がある。
2015年のCOP21(第21回国連気候変動枠組条約締約国会議)で採択されたパリ協定では、全ての国が2℃抑制シナリオを前提にCO2削減を推進していくことに合意した(社会全体で気温上昇を抑制することとは異なる)。これを実現するためには、自動車や建設機械、農業機械などのあらゆる輸送機器で2050年までにCO2排出量を2010年比で40〜70%削減することが求められる。
2021年のCOP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議)で採択された「グラスゴー気候合意」においては、産業革命前と比べた気温上昇を、パリ協定で示された2℃よりも低い1.5℃に抑えることを目指して温暖化ガス削減を進めると各国が確認した。この実現に向け、市場原理(経済合理性)にかかわらず、政策が誘導する形で、石油代替技術の普及が進むと認識されている。
このような中、自動車メーカー各社は次々と次の一手に向けた戦略を発表している。例えば、メルセデス・ベンツは「First Move the World」というスローガンの下、2039年に新車でカーボンニュートラルを目指すと宣言した。今後20年間で乗用車領域における新車のカーボンニュートラルを達成すること、PHEV(プラグインハイブリッド車)またはEV(電気自動車)が2030年までに新車販売の50%以上を占めることを目指すとしている。
日系の自動車メーカーも相次ぎ変革の本気度合いを説明しているが、メルセデス・ベンツをはじめとする欧州自動車メーカーは既に人員削減にまで着手している。取り組みの進展度合では先んじており、投資家などの市場からの評価も相対的に高い。
政策誘導により脱炭素化は推進されていくが、各国のポリシーや経済状況および業界動向に応じて対応速度が異なるため、2050年まではアプリケーション別、さらに国別にCO2削減強度の度合いにグラデーション(差分)が生じるとみられる。
アプリケーション別に見ると、乗用車と商用車からCO2削減が進み、その後、乗用車と商用車のCO2削減技術が他アプリケーションでも利用され、普及拡大が進むと見ている。国別では、CO2排出量の多い先進国と中国が中心にCO2削減を進める。特に、環境対応を主要な産業強化政策として位置付ける欧州や中国では、自国産業の成長に向け、積極的な自国市場の整備とグローバル・ルール・メークを推進する。一方、経済発展優先の新興国では、一部例外はあるが当面はコスト重視で、つまりコスト低減に合わせて一気にCO2を削減する道筋を描く。
IEA(国際エネルギー機関)は、「将来的にはZEV(ゼロエミッション車)の普及が進むが、当面はHEV(ハイブリッド車)やNGV(天然ガス車)など漸進的な技術も活用し、輸送部門の低炭素化を推進していくべきだ」と提言した。将来的にHEVやNGVはZEVへ代替も見据えているが、技術の低コスト化が進む前提でシナリオを描いた場合、有望なCO2削減技術オプションは何であろうか?
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