東芝が新経営方針を発表、非中核だった昇降機も照明も東芝テックもコア事業に製造マネジメントニュース(2/3 ページ)

» 2022年06月03日 07時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

東芝グループが抱える内部硬直性と外部硬直性

東芝の島田太郎氏 東芝の島田太郎氏 出所:東芝

 島田氏は「これらの中長期目標を達成するには、東芝グループが抱える内部硬直性と外部硬直性という2つの課題を解決する必要がある」と強調する。内部硬直性とは、過去の成功体験に基づいて運営されている、分社会社や事業部という強固な二重のサイロによる縦割り組織である。これらの縦割り組織はそれぞれ改善活動を推進しているが、改善の成果は共有できていない。一方の外部硬直性では、ある意味“何でもできる”ために“何でもやろう”とすることで自前主義に陥り、開発のダイバーシティーを生かせていないことに問題がある。

東芝グループの課題は2つの硬直性にある 東芝グループの課題は2つの硬直性にある[クリックで拡大] 出所:東芝

 これらの2つの硬直性が課題ではあるものの、東芝には、先述したDE、DX、QXへとつながるデータサービスのための重要な資産となる、基幹インフラや産業を支える基盤事業がある。島田氏はその例として、カーボンニュートラルで鍵になるパワー半導体や、エネルギー安全保障に向けて改めて注目を集めている原子力、防衛装備とも関わる電波システムを紹介した。先述の投資家およびスポンサーとの協議における初期提案10件のうち8件が非上場化だったものの、原子力や防衛装備など事業の存在が東芝の非上場化の大きな壁になっていることを考えると、経営方針でその存在をアピールした意味は大きい。

東芝の事業は基幹インフラや産業を支えている 東芝の事業は基幹インフラや産業を支えている[クリックで拡大] 出所:東芝
パワー半導体原子力電波システム 基幹インフラや産業を支える基盤事業の例。左から、パワー半導体、原子力、電波システム[クリックで拡大] 出所:東芝

 2つの課題を解決するための取り組みでは、内部硬直性に対しては「Software Defined Transformation」を挙げた。現在の東芝の事業では、ハードウェアやシステムを開発してからそこにソフトウェアを組み込むという体制になっている。これを、まずはソフトウェア中心に置き換えるのがSoftware Defined Transformationであり、これによって第1段階のDEを実現する。そして、このSoftware Definedな状態から、ソフトウェアを中核に他社のハードウェアやアプリケーションをも巻き込んだプラットフォーム化によってDXを目指す。2030年以降を想定するQXは「DXによって作り出したプラットフォームが量子技術によって絡み合い、最適化される世界だ」(島田氏)とした。

「Software Defined Transformation」でDEからDXを目指すQXに至る 内部硬直性を解決する「Software Defined Transformation」でDEからDXを目指し(左)、QXに至る(右)[クリックで拡大] 出所:東芝

 そして、Software Defined Transformationの進め方としては、何百万人もの市民が利用する電車を止めずに新たな再生を進めている渋谷の街をモデルケースとする「SHIBUYA型ステップ」を挙げた。DEからDXへの移行で鍵になるソフトウェアの開発体制を例にとると、現在東芝内にソフトウェア開発人員が約7400人いるものの、グループ内の約30社に分散しており、開発プロセスや管理メトリクスも統一されておらず、開発の重複も起こっている。そこで、まずは同じ管理メトリクスでの開発成熟度の見える化を進めて、先行するデジタルソリューションセグメントの方法論を全社展開してから、部門統合を進めていくとしている。

「SHIBUYA型ステップ」ソフトウェア開発体制の統合・最適化の例 「SHIBUYA型ステップ」(左)とソフトウェア開発体制の統合・最適化の例(右)[クリックで拡大] 出所:東芝

 Software Defined TransformationによるDEからDXへの移行で重要な役割を果たすのがデータである。島田氏はデータビジネスへのアプローチとして「人のデータ」と「産業のデータ」から成るダブルダイヤモンドモデルを掲げ、両方のダイヤモンドに取り組むとした。B2Cダイヤモンドに当たる人のデータは、いわゆるGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon.com)の成長の礎になってきた領域だが、「まだ取り切れていない領域がある。東芝は東芝テックが圧倒的な国内シェアを持つPOSと、昇降機と照明の両事業に関わる人のデータを押さえている点で優位性がある」(島田氏)という。B2Bダイヤモンドである産業のデータも、競合他社が事業展開を進める際に注力しているデータを抱え込みがちな大企業ではなく、データの総量として最も大きく、データ提供にも協力的な中小企業に焦点を当てる方針だ。データビジネスを事業化検討する際の起点としては、人のデータでは人流データ、産業のデータではエネルギー・CO2データを事例として挙げた。

ダブルダイヤモンドモデル ダブルダイヤモンドモデル[クリックで拡大] 出所:東芝
人流データを起点とした事業化検討エネルギー・CO2データを起点とした事業化検討 人流データを起点とした事業化検討(左)と、エネルギー・CO2データを起点とした事業化検討(右)の事例[クリックで拡大] 出所:東芝

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