製造業×品質、転換期を迎えるモノづくりの在り方 特集

日本製鋼所子会社が発電機用部材で検査不正、製品部門が検査結果の書き換え指示品質不正問題

日本製鋼所は、同社子会社の日本製鋼所M&Eが製造するタービン、発電機用ローターシャフト、発電機用リテーニングリングの検査の一部で不適切行為があったことを発表した。内部通報からの抜き打ち調査で判明したもので、遅くとも1998年から検査における不正が繰り返し継続的に実施されていたという。

» 2022年05月10日 06時30分 公開
[朴尚洙MONOist]

 日本製鋼所は2022年5月9日、同社子会社の日本製鋼所M&E(以下、M&E)が製造するタービン、発電機用ローターシャフト、発電機用リテーニングリングの検査の一部で不適切行為があったことを発表した。内部通報からの抜き打ち調査で判明したもので、遅くとも1998年から検査における不正が繰り返し継続的に実施されていたという。

 M&Eは、日本製鋼所の素形材・エネルギー事業、風力発電機器保守サービス事業、グループ会社4社が統合して2020年4月に発足した事業子会社で、製造拠点は日本製鋼所の発祥地となる室蘭製作所である。今回、検査不正が判明したタービンやローターシャフトなどの発電機用部材は鋳鍛鋼部門が手掛けている。

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 M&Eによる検査不正が発覚したのは2022年2月下旬に行われた内部通報からだ。これに合わせて、親会社の日本製鋼所がM&Eに対し抜き打ちによる社内調査を実施したところ、同年3月下旬に、M&Eが製造する一部製品の検査で不適切行為が行われている事実を確認したという。その後、外部弁護士の協力を得て社内調査を継続実施し、タービン、発電機用ローターシャフト、発電機用リテーニングリングの3製品での検査不正を確認した。

 検査不正の内容は大まかに3つに分かれる。1つ目は、製品に残留する応力レベルや均一性の確認を目的に、複数箇所をひずみゲージで測定する残留応力試験の測定位置の変更や不足、測定値の書き換えである。2つ目は、溶解、精錬後の溶鋼の成分分析であるレードル分析において、要求に応じて実施するガス分析の値の書き換えと省略。そして3つ目は、製品の均質性の確認を目的に複数箇所を硬度計で測定する硬度測定試験の測定位置の変更や不足、測定値の書き換えだ。

 M&Eでは、検査不正を行った3製品について、製品部門が顧客との要求仕様を調整する一方で、その要求仕様から逸脱した検査結果がM&E社内の検査部門から報告された場合は、その内容を個別に判断して対応方法を決定しており、製品部門が品質保証機能も担っている。今回確認された検査不正では、製品部門が検査部門に対して、実際の検査結果と異なる検査成績書を作成するように指示をしていたことが確認されている。先述した通り、製品部門は「内容を個別に判断して対応方法を決定」するが、この際に、数値などの逸脱の程度によっては顧客が求める要求仕様の範囲内となるよう、文書などにより具体的な数値などを示して検査成績書を書き換えさせていた。

 日本製鋼所は検査不正の原因について「製品部門が検査結果の逸脱による納期遅延を防ぐために、過去の実績や経験などに基づき品質に影響しないと個別に判断したものについて、検査部門に対し検査結果の書き換えを指示していた」(ニュースリリースより抜粋)としている。また、検査部門についても、文書などによる指示を様式化することで製品部門の指示にそのまま従うなど、本来の職務分掌やけん制機能が失われていた。これらの要因が複合的に絡み合ったことが、今回の検査不正の主な原因になったとしている。

 現在は、検査不正が判明した製品に関連する顧客に対し、逐次連絡と説明を開始するとともに、品質・性能への影響について協議および検証を進めているところである。これまでの社内調査と検証において、検査不正に起因した、製品の品質や性能に影響する具体的な問題は現時点では確認されていないという。

 なお、M&Eは、原子炉圧力容器部材、蒸気発生器部材、使用済燃料輸送・貯蔵用キャスク部材、一次冷却系配管材などの原子力発電所向け部材も製造しているが、現時点で検査不正は確認されていない。原子力製品の場合、今回検査不正が判明した3製品のように製品部門が品質保証機能を持つ体制ではなく、独立した専任の品質保証部門が設置されている。このため、職務分掌とけん制機能が厳格に維持されていることから、適切な内部統制が整備されているという。国内で現在稼働中の原子力発電所で使用されている、M&Eが製造した原子力製品についても調査を行い、顧客の要求仕様から逸脱した製品がないことを個別に確認している。

 また、今回のM&Eの検査不正の発覚を受けて、M&Eを含めた日本製鋼所グループ全体の品質保証体制の検証とコンプライアンスの一層の強化に取り組むため、外部弁護士から構成される特別調査委員会を設置し、調査を実施することを決めた。特別調査委員会の委員は、東京丸の内法律事務所 弁護士の宮川勝之氏と、隼あすか法律事務所 弁護士の高松薫氏が務める。2022年10月末をめどに調査を完了し調査結果を公表する予定だ。

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