変形バイクを開発するICOMA――金型レス製造で目指す令和のバイクとは越智岳人の注目スタートアップ(4)(2/3 ページ)

» 2022年04月20日 10時00分 公開
[越智岳人MONOist]

決してギミックではない変形へのこだわり

机の下に収納可能なサイズに変形できる「タタメルバイク」 机の下に収納可能なサイズに変形できる「タタメルバイク」。変形に対するこだわりは、生駒氏の歩んできたこれまでのキャリアがベースとなっている[クリックで拡大] 出所:ICOMA

 タタメルバイクの特長である“変形”には、玩具業界出身の生駒氏ならではの「変形哲学」ともいえる思想が込められている。

 「変形前と変形後の形状や機能には、実用性と必然性があり、変形によって2つの形状がつながるという関係でなくてはならないと考えていました。畳むと正方形の箱状になり、机の下にも収納できるぐらいのサイズを目標としていました。また、表面を平面にすれば外装のカスタマイズもしやすくなるので、どんなスペースに置いても馴染むデザインにできます」(生駒氏)

 カスタマイズできる余地を残すことで、ユーザーのライフスタイルに寄り添うデザインを目指すと同時に、バイクのカスタマイズ文化にも馴染む仕様になっている。

 タタメルバイクはそのコンセプトから、かつてホンダが1980年代に製造・販売していた「モトコンポ」をほうふつとさせる。しかし、モトコンポがハンドル部分の収納だけだったのに対し、タタメルバイクは文字通り、本体を畳んで四角形に変形させることで全長を120cmから70cmに短縮でき、机の下にきれいに収められる。また、バッテリー駆動なのでオイル漏れの心配がなく、非常時には外部バッテリーとして利用できるといった利点もある。

 ただ、その一方でバイクとしての操作性に影響を及ぼすことから、軽量化はあえて追求しないという。

 「走行時の安定性の観点から現状(約45kg)以上の軽量化は目指していません。ただ、都市圏であればある程度バリアフリー化が進んでいることや、車輪は変形後の移動時にも使用できるので、持ち運び自体はさほど苦労しないのではないかと思います」(生駒氏)

 変形することに意味を持たせながらも、そのプロセスに楽しさやワクワク感を持たせたいと生駒氏は変形に対するこだわりを見せる。そこには、玩具業界出身ならでは思考が垣間見える。

 「触った時に気持ち良い方向に動いてくれたり、予想の斜め上を行く方向に形を変えられて、可逆的に変形できたりといった要素を押さえながら、高いユーザビリティを担保させるというのが玩具業界で学んだことです。タタメルバイクでもこの要素を非常に重要視していますし、それを実用性のあるバイクで実現しようと取り組んでいることがSNSでの反響にもつながっているように思います」(生駒氏)

「ステルスにする意味はない」開発手法

「タタメルバイク」に乗る生駒氏 「タタメルバイク」に乗る生駒氏 [クリックで拡大] ※撮影:筆者

 タタメルバイクの開発は生駒氏1人で大半を担っているが、CerevoやGROOVE X時代の同僚、モビリティ業界に勤める友人らにメンターとして参加してもらい、積極的にフィードバックを受けられる体制を組んでいる。また、メディアでの反響が火付け役となり、モビリティ業界も含め、さまざまな企業からの企画・開発協力の話も進んでいるという。それらは、実際に動く試作品があったからこそ実現できたことだと生駒氏は語る。

 「最初にSNSへ投稿したときのように、自分で手を動かして開発したものを見せたことによって、周りが面白がってくれたことが前進できた理由になっています。周りから『これは最後まで作り切った方がいい』という声を数多くいただいたことが原動力になっています。やはり、実際に開発した試作品が目の前にあるからこそ、それを見た人たちも熱量をもって反応しているのだと思います。『こういうバイクを作ってみたい』という構想だけで終わっていたら、ここまでの広がりにはなっていなかったでしょう」(生駒氏)

 また、開発の進捗(しんちょく)についてもオープンにし、SNSへの投稿やイベントへの出展などを通じて、積極的に情報を発信している。スタートアップに限らず、製造業では情報は極力出さず、一定の進捗に至るまではステルスで活動することが常識だが、生駒氏はそれとは真逆の考え方を持っている。

 「消費者の価値観が激しく変化する世の中で、自分たちの製品が支持されるレベルに到達するには、積極的にユーザーの候補となり得る人たちに見せていくべきだと思います。一方で、さまざまなメーカー企業に対して試作品を披露することで、カスタムパーツや製造の一部分で協力関係を築けるといった広がりも早期に生まれます。大企業であれば囲い込んでクローズドで開発するのが普通ですが、ICOMAは非常に小さい会社で私自身のリソースも限られています。だからこそ、始めから皆で協力して製品化するという方向に舵を切りやすいわけです」(生駒氏)

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