また、協働ロボットの活用において、課題だとされてきたのが、ティーチングなどの設定の負荷である。多くのロボットメーカーはこれらの課題を解決するために初心者向けのプログラミング支援ツールを用意しているが、デンソーウェーブではヒアリングを通じて、これらの初心者向けプログラミングツールが実際にはあまり使われていないということを確認したという。
「初心者向けプログラミング支援ツールはデモなどの場面にはよいが、実際に製造現場で使うためにはシンプル過ぎて結局使われていないというケースが非常に多かった。課題を掘り下げると、ロボットの専門知識がある人向けのプログラミングツールと、この初心者向けのプログラミング支援ツールの間でに分断があり、“複雑で高精度な動作でも簡単に設定できる”というニーズがあることが分かった」と澤田氏は述べる。
そこで「COBOTTA PRO」シリーズではこのギャップを埋めるツールとして、新たなビジュアルプログラミングツールとダイレクトティーチング方式を用意した。ビジュアルプログラミングツールは、ブロックベースのオープンソースビジュアルプログラミング言語であるBlocklyを採用し、ブロックごとのプログラムを組み合わせることで簡単にロボット作業のプログラミングが行えるようにしている。澤田氏は「ビジュアルでモジュール化された作業のブロックを組み合わせるだけで簡単に複雑な作業を構築できる」と語った。
一方、ダイレクトティーチングの新方式は、全てを人手の直感的な形だけで行うのではなく、論理的手法と組み合わせることで、より精緻な動作プログラムを簡単に行えるようにした。例えば、XYZ方向で軸を固定したり、精密な動作時にはロボットの動きを遅く(重く)することで、明確な数値設定と同様の精密設定をダイレクトティーチングで行えるようにしている。これらによって「環境にもよるが、設定時間は約半分にできたケースもある」(澤田氏)。
これらにより、まずは協働ロボットを工場環境で幅広い用途に組み込めるようにしていく。「協働ロボットの活用方法は、大企業では主に量変動に追従する意図で使われるケースが多い。少量生産時は協働ロボットで生産ラインを構築し、大量生産を行う場合は通常の産業用ロボットを使うようなパターンだ。変動部分を協働ロボットに担わせることで効率を高めることを想定しているため、作業スピードが求められ簡単に設定できる必要がある。『COBOTTA PRO』ではこうした要望に応えた」と澤田氏は語る。
今後は現在人が担っている難作業を置き換える取り組みを強化する方針だ。そのためにはAI(人工知能)模倣学習やグリッパー、物体認識などのさまざまな技術との組み合わせが必要になる。これらの土台として、ロボットコントローラー「RC9」を2019年に投入し、各種ロボットへの採用を進めている。
「RC9」は、産業用PC(IPC)にインストールするファームウェアとして提供されるロボットコントローラーだ。従来はCPUと産業用ロボットのドライバーを一体化させたオールインワン型のコントローラーが主流だったが、このうちCPUをベッコフオートメーション製のIPCに置き換え、これにより顧客が求める性能に応じた仕様のIPCを自由に選択できるようになった。同時に、PCベース制御技術である「TwinCAT」をIPCに搭載することで、ロボットのリアルタイム制御も実現している。IPCとしてオープンなプラットフォームを採用していることで周辺のさまざまな技術や機器との連携を行いやすくしている。
澤田氏は「現状では製造現場には人手でしか行えないような作業が数多く残されており、ロボットで再現するには費用対効果の面で難しい場合も多い。ただ、画像やAIなど周辺技術を組み合わせることで少しずつこれらの領域も置き換えられる可能性が出てきている。これらを活用し実際に人の難作業を置き換えられるようにしていく」と今後の方向性について語っている。
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