矢面さんがまた今日も印出さんを訪ねてきました。前回に比べると顔色は少し良いようです。
印出さん、こんにちは。この前はありがとうございました。すぐに解決は難しいとは思うんですが、少しずつ現場と話し合いを始めて「新たな働き方」について模索を進めているところです。
素晴らしいわね。それぞれの企業や現場、働く人が違う中で一番大事なのはコミュニケーションだと思うわ。しっかりコミュニケーションしていく中で、グーチョキパーツにとって最適な「新たな働き方」が見つかるといいわね。
ありがとうございます。そこで、質問なんです。現場のリーダーたちと定期的に会合を開くようになって、リーダーたちの中にも熱心な人とそうでない人がいるんです。それで熱心なリーダーの話を聞いても「メンバーに理解してもらえない場合が多い」という声が多くて、現場のメンバーをいかに巻き込むかが難しいなあと思っているんです。
確かに、現場をうまく取り込めないというのは、よく聞くわね。いくつかのパターンがあると思うわ。
パターンですか。どういうことですか。
例えば、1つ目は「装置の見える化」などのように、システム化されたものを「うまく使いこなす」ということを現場に求めるパターンね。これは効果と運用の方法をうまく伝えて習得させることが重要ね。
なるほど。「こういう効果を期待している」という点をしっかり伝えるのと「運用の手法の中に組み込む」ということですね。
スマートファクトリー化に限らずDX(デジタルトランスフォーメーション)などデジタル技術が絡む取り組みの中では、実証ばかりが増えて、そこから先に進まない“PoC(概念実証)の壁”が存在するといわれています。要因として、現場の具体的な運用に落とし込めなかったり、落とし込んだ場合に期待する効果と違ったりするケースがよく見られます。
例えば、「見える化システム」の導入においても「見える」内容については、精査が必要です。例えば、工場単位では生産数や経費、生産性などの項目が見たいかもしれませんし、現場の作業者にとっては生産数や機械の停止時間などが気になるかもしれません。こうした中で「どういう項目の改善を期待するのか」を明確にし、それを現場での作業に組み込む必要があります。
また、こうした運用を定着させるには、さまざまなデータが欲しいからといって現場の運用の負担になるようなデータ取得方法では難しくなります。例えば、ある工場では、組み立てラインで見える化システムを導入し作業データを取得するのに、現場の作業者に作業の開始と終了時に作業内容を示すボタンを押すような運用方法を決めたといいます。しかし、現場の作業者にとってみれば、ボタンを押すために組み立て作業のリズムが崩れる上に、新たな作業が加わることで負荷が増え、不満が高まっていったそうです。そのため、ボタンの押すタイミングがバラバラだったり、押し忘れが起きたりして、結局分析に使えるようなデータが集まらなかったといいます。
このようにKPI(重要業績評価指標)を定めた上で、現場作業の負荷を抑えた形で自然に組み込んでいくことが理想です。実証で止まるパターンは、このどちらかに無理があるために進まないのだと考えます。これを起こさないためには先ほど印出さんが話したようにコミュニケーションを積み重ねていくことが重要です。
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